2016年05月28日更新

圏論

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圏論については『圏論の基礎』やnLabhttp://alg-d.com/math/kan_extension/などを参照.

このページでは「圏」と書いたら特に断らない限り「小さい圏」を表すものとする.

{X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする.圏 X, Λ を次のように定める.

関手 L: X→Λ を Lx := 「 x∈Xλ となる λ∈Λ 」で定める.このように定義すれば, {X_λ}_{λ∈Λ} の選択関数とは L の右随伴関手のことである.

L -| R: X→Λ とすれば,任意の x∈X, λ∈Λ に対して Homλ(Lx, λ) ≅ HomX(x, Rλ) である.ここで x∈Xμ とすれば Homλ(μ, λ) ≅ HomX(x, Rλ) ,即ち μ=λ ⇔ Rλ∈Xμ である.よって Rλ∈Xλ となり, R は選択関数である.

逆に R を選択関数とすれば Homλ(Lx, λ) ≅ HomX(x, Rλ) が分かる.

故に,随伴関手の存在に関する定理から選択公理を導くことができる.

定理 次の命題は( ZF 上)同値.

  1. 選択公理
  2. C, D を圏, F: C→D を関手とする.任意の d∈D に対して F から d への普遍射が存在するならば, F は右随伴を持つ.
  3. C を余完備な圏, D を圏, F: C→D を余連続な関手とする. F はsolution set conditionを満たすとする.このとき F は右随伴を持つ.(General Adjoint Functor Theorem)
  4. C を余完備かつco-wellpoweredで,generatoring setを持つ圏, D を圏, F: C→D を余連続な関手とする.このとき F は右随伴を持つ.(Special Adjoint Functor Theorem)
  5. C, D, U を圏, F: C→D , E: C→U を関手として,各 d∈D に対して余極限 colim(F↓d→C→U) が存在するとする.このとき F に沿った E の左Kan拡張 FE が存在し, FE(d) ≅ colim(F↓d→C→U) である.

証明 1⇒2,1⇒3,1⇒4,1⇒5 は省略する.

(2 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする. C, D, F として,上で定義した X, Λ, L を取る. λ∈Λ とすると,任意の x∈Xλ に対して一意な射 Lx→λ が普遍射である.よって L が右随伴を持つ.

(3 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする.どの Xλ にも含まれない元 0, 1 を取っておく. 0, 1 ∉ Λ としてよい.圏 C, D を次のように定める.

関手 F: C→D を

Fx := 0 (x=0 のとき)
Fx := 1 (x=1 のとき)
Fx := λ (x∈Xλのとき)

で定める.このとき C は余完備, F は余連続でsolution set conditionを満たす.故に右随伴 G: D→C が存在する.すると x∈Xμ , λ∈Λ に対して HomD(Fx, λ) ≅ HomC(x, Gλ) だから, Gλ∈Xλ となり, G は選択関数である.

(4 ⇒ 1)3 ⇒ 1と同じ圏を使用すればよい.

(5 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする. C, D, F として,上で定義した X, Λ, L を取る.また U := X , E := idX と定める.

任意の λ∈Λ に対して余極限 colim(L↓λ→X→idX) は明らかに存在する.よって LidX: Λ→X が存在する. λ∈Λ を取る. Xλ≠ ∅ だから, x∈Xλ が取れる.このとき Lx=λ である.自然変換 η: idX⇒(LidX)L から射 ηx: x→LidX(Lx) = LidX(λ) が得られる.よって圏 X の定義から LidX(λ)∈Xλ でなければならない.

Xop = X , Λop = Λ であるから,選択関数は L: X→Λ の左随伴関手であることも分かる.よって,先の命題の双対も選択公理と同値である.(省略)

定義 圏 C が骨格的 ⇔ f: c→d が同型射ならば c=d .

定義 圏 C の骨格的な充満部分圏 S⊂C で「任意の c∈C に対してある s∈S が存在して c ≅ s となる」を満たすものを C の骨格という.

定理 次の命題は( ZF 上)同値.

  1. 選択公理
  2. 任意の圏は骨格を持つ.
  3. 圏の骨格は(もし存在するならば)同型を除いて一意である.

証明 (1 ⇒ 2) C を圏とする.選択公理により,商集合 Ob(C)/≅ の完全代表系 S を取る. S を充満部分圏 S⊂C と見なせば, S が骨格である.

(2 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする.上で定義した圏 X の骨格 S を取れば,明らかに Ob(S) が {X_λ}_{λ∈Λ} の選択集合である.

(1 ⇒ 3) C を圏, S, T⊂C を骨格とする. s∈S とすると, T が骨格だから Fs∈T が一意に存在して s ≅ Fs となる.このとき As := { f: s→Fs | f は同型射 } ≠ ∅ である.よって選択公理により (fs)s∈S∈Πs∈SAs を取ることができる. f: s0→s1 に対して Ff: Fs0→Fs1 を Ff := fs1ffs0-1 により定めれば, F: S→T は関手である.

この F が圏同型である.

(3 ⇒ 1) 選択公理と同値な次の命題を示す.

非空集合の族 { Xλ } λ∈Λ は全ての Xλ の濃度が等しいとする.このときある λ0∈Λと写像の族 { fλ } λ∈Λ が存在して「各 λ∈Λに対して fλ: Aut(Xλ0)→Aut(Xλ) は群同型」を満たす.

証明は集合に関する命題を参照.

{X_λ}_{λ∈Λ} を非空集合の族で, λ≠μ に対して |Xλ| = |Xμ| であるとする. λ0∈Λ を一つ取る.圏 C を Ob(C) := Λ×{ 0, 1 } で

HomC(<λ, i>, <μ, j>) = Bij(Xλ0, Xλ0) (i=j=0, λ=μ)
HomC(<λ, i>, <μ, j>) = Bij(Xλ, Xλ) (i=j=1, λ=μ)
HomC(<λ, i>, <μ, j>) = Bij(Xλ0, Xλ) (i=0, j=1, λ=μ)
HomC(<λ, i>, <μ, j>) = Bij(Xλ, Xλ0) (i=1, j=0, λ=μ)
HomC(<λ, i>, <μ, j>) = ∅ (それ以外).

但し,Bij(X, Y) := { f: X→Y | fは全単射 }

により定める. i=0, 1 に対して Ci := Λ×{ i } と置けば,明らかに C0, C1⊂C は骨格である.故に仮定3により圏同型 F: C0→C1 が存在する.関手 F から全単射 Fλ: Aut(Xλ0)→Aut(Xλ) が得られる.

定義 C を圏, i, p∈Mor(C) を射とする.i が p に対してleft lifting propertyを持つ,もしくは p が i に対してright lifting propertyを持つとは,任意の可換図式

に対して射 h: b→x が存在して,次の図式が可換となることである.

定義 C を(小さいとは限らない)圏,L, R⊂Mor(C) を部分クラスとする.(L, R) が C のweak factorization systemであるとは,以下の条件を満たすことを言う.

  1. 任意の射 f∈Mor(C) に対して,ある i∈L , p∈R が存在して f=pi と書ける.
  2. i∈L ⇔ i は任意の p∈R に対してleft lifting propertyを持つ.
  3. p∈R ⇔ p は任意の i∈L に対してright lifting propertyを持つ.

命題1 (L, R0), (L, R1) が圏 C のweak factorization systemならば R0=R1

証明 p∈R0 とする. (L, R0) がweak factorization systemだから,任意の i∈L に対してright lifting propertyを持つ.よって, (L, R1) がweak factorization systemだから, p∈R1 となる.即ち R0⊂R1 である.同様にして R1⊂R0 だから R0=R1 となる.

定義 Mono, Epi, SplitEpi⊂Mor(Set) を以下のように定義する.

Mono := { f∈Mor(Set) | f は単射 }
Epi := { f∈Mor(Set) | f は全射 }
SplitEpi := { f∈Mor(Set) | f は全射で,ある写像 g が存在して fg=idとなる }

命題 (Epi, Mono) は Set のweak factorization systemである.

証明 省略

命題2 (Mono, SplitEpi) は Set のweak factorization systemである.

証明 任意の写像 f が f=em , m∈Mono , e∈SplitEpi と分解できることは容易に分かる.

m∈Mono,e∈SplitEpi として任意の可換図式

を考える. m: A→B は単射だから A⊂B としてよい.また e∈SplitEpi だから,ある写像 s: Y→X が存在して es=idY となる.写像 h: B→X を, b∈B に対して

h(b) := f(b) (b∈Aのとき)
h(b) := s(g(b)) (b∈B\Aのとき)

と定める.このとき明らかに hm=f である.また b∈A のとき

eh(b) = e(h(b)) = e(f(b)) = g(b)

であり, b∈B\A のとき

eh(b) = e(h(b)) = e(s(g(b))) = g(b)

となるから eh=g である.以上により m∈Mono が e∈SplitEpi に対してleft lifting propertyを持つ(即ち e∈SplitEpi が e∈Mono に対してright lifting propertyを持つ)ことが分かる.

写像 f: X→Y が任意の e∈SplitEpi に対してleft lifting propertyを持つとする.次の実線は可換である.

明らかに e∈SplitEpi だから,写像 h: Y→X が存在して可換となる.即ち idX=hf だから f は単射である.

写像 f: X→Y が任意の m∈Mono に対してright lifting propertyを持つとする.次の実線は可換である.

m∈Mono だから,写像 h: Y→X が存在して可換となる.即ち idY=fh だから f∈SplitEpi である.

定理 選択公理 ⇔ (Mono, Epi) は Set のweak factorization systemである.

証明 「任意の全射 F: X→Y に対して,ある G: Y→X が存在して FG=idY 」が選択公理と同値であった.故に命題1命題2から明らか.

定義 C, D を圏とする. C から D へのanafunctorとは組 F = <|F|, F^, F> であって以下を満たすものを言う.

  1. |F| は圏である.
  2. F^: |F|→C , F: |F|→D は関手である.
  3. F^ は忠実充満で,対象について全射である.

記号で F: C →a D と表す.

定義 F, G: C→a D をanafunctorとする. F から G への自然変換とは,次の図式の自然変換 φ のことをいう.( |F|×C|G| は F^ と G^ のpullbackである.)

F: C→D を関手とするとき, id: C→C と F: C→D により F をanafunctor F: C→a D とみなすことができる.

定理 次の命題は( ZF 上)同値.

  1. 選択公理
  2. 関手 F: C→D が圏同値 ⇔ F が忠実充満かつ本質的全射
  3. 任意のanafunctor F: C→a D に対して,ある関手 G: C→D が存在して F ≅ G となる.

証明 (1 ⇒ 2) 省略.

(2 ⇒ 3) F: C→a D をanafunctorとする. F^ は忠実充満かつ本質的全射だから,仮定2より関手 K: C→|F| で F^K ≅ idC,KF^ ≅ id|F| となるものが存在する.G := FK とする.

このとき F ≅ GF^ だから,anafunctorとして F ≅ G である.

(3 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合として,最初に述べたように圏 X, Λ と関手 L: X→Λ を取る. 組<X, L, idX> はanafunctor F: Λ→a X を定めるから,ある関手 G: Λ→X が存在して F ≅ G となる.即ち自然同型 φ: id⇒GL が存在する.

λ∈Λ に対して x∈Xλ を取れば G(λ)=G(L(x))=id(x)=x∈Xλ となるから G は選択関数である.

定理 選択公理
⇔ C を圏,x∈C を対象とする.任意の a∈C に対して直積 a×x が存在するならば,関手 F: C→C で「任意の a∈C に対して Fa ≅ a×x 」となるものが存在する.

証明 ( ⇒ ) 省略.

( ⇐ ) {X_λ}_{λ∈Λ} を互いに素な非空集合の族とする. Λ∩∪_{λ∈Λ}X_λ= ∅ としてよい. ∞ ∉ Λ∪∪_{λ∈Λ}X_λ となる元 ∞ を一つ取り,圏 C を以下のように定める.

このとき明らかに,任意の a∈C に対して直積 a×∞ が存在する.(特に λ∈Λ に対して λ×∞∈Xλ である.) よって仮定により関手 F: C→C で,任意の a∈C に対して Fa ≅ a×∞ となるものが存在する.このとき F(λ)∈Xλ となるから F|Λ: Λ→∪_{λ∈Λ}X_λ が選択関数である.

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