2015年07月08日更新

集合に関する命題

PDF版

定理1 選択公理
⇔ 非空集合の族{X_λ}_{λ∈Λ}で全てのXλの濃度が等しいもの,に対してΠ_{λ∈Λ}X_λ≠ ∅

証明⇒ は明らかなので,逆を示せばよい. {X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の任意の族とする.Y := (∪_{λ∈Λ}X_λ)Nと置く.明らかに Y≠∅ である.λ∈Λに対し Fλ: Y×Xλ→Y を

Fλ(f, x)(0) := x
Fλ(f, x)(n+1) := f(n)

で定義する.Fλ は単射だから |Y×Xλ|≦|Y|.|Y|≦|Y×Xλ| だからBernsteinの定理より |Y×Xλ| = |Y|.従って仮定から Πλ∈Λ(Y×Xλ) ≠ ∅.故にΠ_{λ∈Λ}X_λ ≠ ∅である.

この証明で,選択関数の存在が非自明な場合には |Y|=∞ となるから,次の系が分かる.

系2 選択公理
⇔ 無限集合の族 { Xλ }λ∈Λ で全ての Xλ の濃度が等しいもの,に対して Πλ∈ΛXλ≠ ∅

定理3 選択公理
⇔ 集合の順序対からなる族 { <Xλ, Yλ> }λ∈Λが,各λ∈Λに対し |Xλ| = |Yλ| を満たしているとする.このとき写像の族 {fλ}λ∈Λ で,「各λ∈Λに対し fλ: Xλ→Yλ は全単射」を満たすものが存在する.

証明 ⇒は明らかなので,逆を示せばよい.{X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の任意の族とする.| Xλ×N | = | Xλ×N∪{ ∅ } | であるから,族 { <Xλ×N∪{ ∅ }, Xλ×N> }λ∈Λに仮定を適用して全単射 fλ: Xλ×N∪{ ∅ }→Xλ×N からなる族を得る.g(λ) := ( fλ( ∅ )の第一成分 ) と置けば,gが選択関数である.

定理4 選択公理
⇔ 非空集合の族{X_λ}_{λ∈Λ}は全てのXλの濃度が等しいとする.このとき写像の族{ fλ, μ }λ, μ∈Λで,「各λ, μ∈Λに対し fλ, μ: Xλ→Xμ は全単射」を満たすものが存在する.

証明 ⇒ は明らかなので,逆を示せばよい.{X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の任意の族とする.Y := (∪_{λ∈Λ}X_λ)N と置く.明らかにY≠ ∅ である.定理1の証明と同様にして | Xλ×Y | = |Y| が分かる.また,| Xλ×Y | = | Xλ×Y∪{ ∅ } | も容易に分かる.

I := {0}×Λ, J := {1}×Λ, K := I∪K と置き <0, λ>∈I に対し Y<0, λ> := Xλ×Y∪{ ∅ }, <1, λ>∈J に対しY<1, λ> := Xλ×Y と定める.族{ Yi } i∈K に仮定を適用して全単射の族 { fi, j }i, j∈K を得る.このとき各λ∈Λに対し

Fλ := f<0, λ>, <1, λ>: Xλ×Y∪{ ∅ }→Xλ×Y

は全単射である.そこでg(λ) := ( Fλ( ∅ )の第一成分 ) と置けば,gが選択関数である.

集合 X に対して Aut(X) := { f: X→X | f は全単射 } とおく.

定理5 選択公理
⇔ 非空集合の族 { Xλ } λ∈Λ は全ての Xλ の濃度が等しいとする.このときある λ0∈Λ と写像の族 { fλ } λ∈Λ が存在して「各 λ∈Λ に対して fλ: Aut(Xλ0)→Aut(Xλ) は群同型」を満たす.

証明 ⇒ は明らかなので, ⇐ を示せばよい.その為には系2の条件を示せばよい.

その為に以下の事実を思い出しておく. X を集合とする. g∈Aut(X) に対して supp(g) := { x∈X | g(x)≠x } と置く. g が互換であるとは, |supp(g)| = 2 となることである. X, Y を無限集合とする. f: Aut(X)→Aut(Y) が群同型のとき, g∈Aut(X) が互換ならば f(g)∈Aut(Y) も互換である.また,二つの互換 g, h∈Aut(X) が交換不可能である為の必要十分条件は |supp(g)∩supp(h)| = 1 となることである.

さて, {X_λ}_{λ∈Λ} を無限集合の族で, λ≠μ ならば |Xλ| = |Xμ| であるとする.仮定により λ0∈Λ と写像の族 { fλ }λ∈Λ が存在して「各 λ∈Λ に対して fλ: Aut(Xλ0)→Aut(Xλ) は群同型」となる.元 x, y, z∈Xλ0 を取り, g∈Aut(Xλ0) を「 x, y を入れ替える互換」, h∈Aut(Xλ0) を「 x, z を入れ替える互換」とする.このとき λ∈Λ に対して supp(fλ(g))∩supp(fλ(h)) = { xλ } となる xλ が一意に取れる.これにより Πλ∈ΛXλ≠ ∅ である.

補題6 {X_λ}_{λ∈Λ} と { Yλ }λ∈ΛΠ_{λ∈Λ}X_λ = Πλ∈ΛYλ≠ ∅ を満たすならば,各 λ∈Λ について Xλ=Yλ となる.

証明 x = (xλ)λ∈Λ∈Πλ∈ΛXλ を一つ取る. μ∈Λ に対して Xμ=Yμ を示す.その為に a∈Xμ を取り

yλ := a (λ=μのとき)
yλ := xλ (λ≠μのとき)

とすれば (yλ)λ∈Λ∈Πλ∈ΛXλ = Πλ∈ΛYλ であるから a∈Yμ である.故に Xμ⊂Yμ であり,逆も同様であるから Xμ=Yμ が分かる.

定理7 選択公理
⇔ 非空集合の族 {X_λ}_{λ∈Λ},{ Yλ }λ∈ΛΠ_{λ∈Λ}X_λ = Πλ∈ΛYλ を満たすならば,各λ∈Λについて Xλ=Yλ となる.

証明 ( ⇒ ) 選択公理により Π_{λ∈Λ}X_λ≠ ∅ だから補題6より明らか.

( ⇐ ) {X_λ}_{λ∈Λ} を非空集合の族とする. Π_{λ∈Λ}X_λ = ∅ と仮定する. |Xμ|≧2 となる μ∈Λ を一つ取り, a∈Xμ を取る.非空集合の族 { Yλ }λ∈Λ

Yλ := Xλ\{ a } (λ=μのとき)
Yλ := Xλ (λ≠μのとき).

により定めれば Πλ∈ΛYλ⊂Πλ∈ΛXλ = ∅ により Πλ∈ΛYλ = Πλ∈ΛXλ である.よって仮定により Xμ = Yμ = Xμ\{ a } となり矛盾する.

定理8 以下の命題は(ZF上)同値.

  1. 選択公理
  2. 任意の X≠∅ と写像 F: X→Y に対して写像 G: Y→X が存在して FGF = F となる.
  3. 任意の全射 F: X→Y に対して,ある G: Y→X が存在して FG = idY
  4. 任意の二項関係 R⊂X×Y に対して,ある関数 f が存在して dom(R) = dom(f) かつ f⊂R となる.
  5. 二項関係 R⊂X×Xが「任意のx∈Xに対してあるy∈Xが存在してxRy」を満たすとき,写像 f: X→X で「任意のx∈Xに対してxRf(x)」を満たすものが存在する.

証明 (1 ⇒ 2) X≠ ∅ , F: X→Y とする.Z := Im(F) と置く.各 y∈Z について F-1(y) ≠ ∅ である.よって { F-1(y) }y∈Z に選択公理を適用して選択関数 f: Z→∪y∈ZF-1(y)=X を得る.y∈Z に対し f(y)∈F-1(y),即ち F(f(y))=y である.また X≠ ∅ だから,X から1つ元 a∈X が取れる.写像 G: Y→ X を

y∈Z のとき G(y) := f(y)
y ∉ Z のとき G(y) := a

と定義すれば,任意の元x∈Xに対し

FGF(x) = F(G(F(x))) = F(f(F(x))) = F(x)

(2 ⇒ 3) F: X→Y を全射とする.X = ∅ のときは自明なので X≠ ∅ とする.すると仮定2 よりある写像 G: Y→X があって FGF = F = (idY)F.よって F の全射性から FG = idY である.

(3⇒4) R⊂X×X を二項関係とする.写像 πX: R→dom(R) を πX(x, y) := x で定めればπXは全射である.故に仮定3から,πXg = id となる写像 g: dom(R)→R が存在する.このとき πY: R→Y をπY(x, y) := y で定めて f := πYgとすれば f⊂R である.

(4 ⇒ 5) 明らか.

(5 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の族とする.X := Λ∪∪_{λ∈Λ}X_λと置く.Λ∩∪_{λ∈Λ}X_λ=∅ としてよい.X上の二項関係Rを

aRb ⇔ a∈Λ, b∈Xa または a=b∈∪_{λ∈Λ}X_λ

で定める.このRに仮定5 を適用し,写像f: X→X を得る.g を f をΛに制限した写像を g とすれば,明らかに g: Λ→X は選択関数である.

定理9 次の命題は(ZF上)同値.

  1. 選択公理,即ち
    非空集合の族{X_λ}_{λ∈Λ}に対して,ある写像 f: Λ→∪_{λ∈Λ}X_λが存在して,任意のλ∈Λに対して f(λ)∈Xλ
  2. 集合族{X_λ}_{λ∈Λ}に対して,ある写像g: ∪_{λ∈Λ}X_λ→Λが存在して,任意の x∈∪_{λ∈Λ}X_λに対して x∈Xg(x)
  3. 集合族{X_λ}_{λ∈Λ}に対して, 互いに素な集合族{Yλ}λ∈Λが存在して Yλ⊂Xλ, ∪λ∈ΛYλ=∪_{λ∈Λ}X_λ を満たす.

証明(1 ⇒ 2) X:=∪_{λ∈Λ}X_λと置き,x∈Xに対し Ax := {λ∈Λ| x∈Xλ }≠∅ と定める.{ Ax }x∈X に選択公理を適用し,選択関数 g: X→∪x∈XAx⊂Λを得る.この g は x∈Xg(x) を満たす.

(2 ⇒ 3) {X_λ}_{λ∈Λ}を集合族とする.仮定2によりg: ∪_{λ∈Λ}X_λ→Λで「任意のx∈∪_{λ∈Λ}X_λに対してx∈Xg(x)」を満たすものが取れる. Yλ:=g-1(λ)とすれば明らかに∪λ∈ΛYλ=XかつYλ∩Yμ = ∅ (λ≠μ)である.y∈Yλとするとg(y)=λだから y∈Xg(y) = Xλ.よってYλ⊂Xλとなる.

(3 ⇒ 1) 定理8の条件3を示す.F: A→B を全射とする.a∈A に対し Xa := { F(a) } と置き,族 { Xa }a∈A に仮定を適用して Ya⊂Xa, ∪a∈A Ya = ∪a∈AXa (=B), Ya∩Yb = ∅ (a≠b) を満たす { Ya }a∈A を得る.各 b∈B に対して b∈YG(b) となる G(b)∈A が唯一つ存在する.この写像 G: B→A は FG = idB を満たす.

定理10 次の命題は(ZF上)同値.

  1. 選択公理
  2. A を集合,B⊂A を部分集合,f: A→B を全射とするとき, 任意の写像 g: A→B に対してある写像 h: A→A が存在して g = fh となる.
  3. A を集合,B⊂A を部分集合,f: A→B を全射とするとき, 任意の全射 g: A→B に対してある写像 h: A→A が存在して g = fh となる.
  4. A を集合,B⊂A を部分集合,f: A→B を全射とする. 写像 g: A→B が g|B = idB を満たすとき,ある写像 h: A→A が存在して g = fh となる.

証明 (1 ⇒ 2) 定理8の3を f に適用して,fk = idB となる写像 k: B→A を得る.そこで h := kg と置けば fh = fkg =idBg = g である.

2⇒3 と 3⇒4 は明らか.

(4 ⇒ 1) {X_λ}_{λ∈Λ}を互いに素な非空集合の族とする.X:=∪_{λ∈Λ}X_λとする.X∩Λ= ∅ としてよい.XにもΛにも含まれない元 ∞ ∉ X∪Λ を一つ取る.A := X∪Λ∪{∞}, B := Λ∪{∞} として全射 f: A→Bを

a∈Xλ のとき f(a) := λ
a∈Λ のとき f(a) := ∞
a=∞ のとき f(a) := ∞

と定める.写像 g: A→B を

a∈Xλ のとき g(a) := ∞
a∈Λ のとき g(a) := a
a=∞ のとき g(a) := ∞

とする.仮定により,ある写像 h: A→A が存在して g = fh となる.このときλ∈Λに対して λ = g(λ) = f(h(λ)) だから,f の定義により h(λ)∈Xλ である.故に h|Λ{X_λ}_{λ∈Λ}の選択関数である.

コメント

Linuxmetel | 2021年8月 5日 03:05

定理 4 の K := I∪K は K := I∪J の間違いだったりしませんか?

コメントする

感想、意見、質問など何でもどうぞ。
※書き込んだのに表示されない場合は、ページをリロードしてみてください。