2013年10月26日更新

入射的・射影的

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定義Cを圏とする.

  1. 対象 I∈C が入射的(injective)
    ⇔関手 HomC(-, I) がモノ射をエピ射に送る
  2. 対象 P∈C が射影的(projective)
    ⇔関手 HomC(P, -) がエピ射をエピ射に送る(エピ射を保つ)
  3. C が十分豊富に入射的対象を持つ(enough injective)
    ⇔任意の対象 X∈C に対し,ある入射的対象 I∈C とモノ射 f: X→I が存在する. これを EI(C)で表す.
  4. C が十分豊富に射影的対象を持つ(enough projective)
    ⇔任意の対象 X∈C に対し,ある射影的対象 P∈C とエピ射 f: P→X が存在する. これを EP(C)で表す.

集合と写像のなす圏 Set の場合.

集合Xが入射的
⇔任意の単射 f: Y→Z と任意の写像 g: Y→X に対しある写像 h: Z→X が存在して g=hf となる.

集合Xが射影的
⇔任意の全射 f: Y→Z と任意の写像 g: X→Z に対しある写像 h: X→Y が存在して g=fh となる.

命題1 EI(Set)である.

証明任意の空でない集合が入射的だからである.

定理2 次の命題は(ZF上)同値

  1. 選択公理
  2. 任意の集合が射影的.
  3. 任意の集合 X に対して,射影的な集合 Y が存在して X⊂Y.

証明 (1 ⇒ 2) Xを任意の集合とする. 任意の全射 f: Y→Z と任意の写像 g: X→Z を取る. f が全射だから各 x∈X に対し f-1(g(x)) は空でない. そこで { f-1(g(x)) }x∈Xに選択公理を適用して 選択関数 h: X→∪x∈X f-1(g(x))⊂Y を得る. すると,h(x)∈f-1(g(x)) だから fh=g である.

(2 ⇒ 3) Y=Xとすればよいから明らか.

(3 ⇒ 1) 全射の右逆写像の存在を示す.f: X→Y を全射とする.仮定3により,射影的な集合 Z で Y⊂Z となるものが存在する. a∈Y を一つ取る.写像 g: Z→Y を

z∈Y のとき g(z) := z
そうでないとき g(z) := a

で定める.i: Y→Z を包含写像とすれば明らかに gi = idY である.Z が射影的だから,ある写像 h: Z→X が存在して fh=g を満たす.このとき k := hi: Y→X と置けば fk = fhi = gi = idY である.

R を単位的可換環とし,R-加群とR-準同型のなす圏 R-Mod を考える.

R-加群 M が入射的
⇔任意の単射準同型 f: L→N と任意の準同型 g: L→M に対し, ある準同型 h: N→M が存在して g=hf となる.

R-加群 M が射影的
⇔任意の全射準同型 f: N→L と任意の準同型 g: M→L に対し, ある準同型 h: M→N が存在して g=fh となる.

R-加群の完全列 0→A→B→C→0 に対し

0→HomR(C, M)→HomR(B, M)→HomR(A, M)
0→HomR(M, A)→HomR(M, B)→HomR(M, C)

は完全列.よって

Mが入射的 ⇔ 関手HomR(-, M)が完全 (⇔ 完全列を完全列に送る)
Mが射影的 ⇔ 関手HomR(M, -)が完全

アーベル群と群準同型のなす圏 Ab を考える.(Ab = Z-Modである.)よく知られているように,EI(Ab)とEP(Ab)が成立している. EP(Ab)のよく知られた証明は

  1. 任意のアーベル群Aに対し,自由アーベル群Bと全射準同型 f: B→A が存在する.
  2. 自由アーベル群は射影的

という手順で与えられる. EI(Ab)の証明も同じように

  1. 任意のアーベル群Aに対し,可除アーベル群Bと単射準同型 f: A→B が存在する.
  2. 可除アーベル群は入射的

という手順で与えられる.

R-加群Mが可除 ⇔ 任意の x∈M が可除元.

x∈M が可除元 ⇔ 任意の非零因子 r∈R に対してある y∈M が存在して x=ry となる.

どちらの証明も1は選択公理を使わずに(ZFで)できる.問題は2である.

定理3 次の命題は(ZF上)同値

  1. 選択公理
  2. 任意の単位的可換環 R とR-加群 M に対して次が成り立つ.

    任意のイデアル I⊂R と任意の準同型 φ: I→ M に対して
    ある準同型 ψ: R→M が存在して ψ|I=φ となる.
    ⇒ Mが入射的

  3. 任意の単項イデアル整域 R に対して,可除R-加群は入射的
  4. 可除アーベル群は入射的

証明(1 ⇒ 2) 単射準同型 f: L→N と準同型 g: L→M を取る.f により L⊂N とみなす.集合

X := { (A, h) | L⊂A⊂N は部分加群,h: A→M, h|L=g }

を考える.(L, g)∈X だから X≠ ∅ である.X に順序≦を

(A, h)≦(B, k) ⇔ A⊂B, k|A=h

で定めると(X, ≦)は帰納的順序集合となり,Zornの補題より極大元(A, h)∈Xが存在する.

A ⊊ Nと仮定する.元 x∈N\A が取れる.B := A+Rx と置く.I := { r∈R | rx∈A }⊂R はイデアルである. 準同型φ: I→M をφ(r) := h(rx) で定める.仮定からψ: R→M が存在してψ|I=φである.さて,準同型 k: B→M を任意の a∈A と r∈R に対して k(a+rx) := h(a)+rψ(1) と定める.これはwell-definedである.

a0+r0x=a1+r1x\ (a0, a1∈A, r1, r2∈R)とすると (r0-r1)x = a1-a0∈Aだから

h(a1-a0) = h((r0-r1)x) =φ(r0-r1) =ψ(r0-r1) = (r0-r1)ψ(1).

故にh(a0)+r0ψ(1)=h(a1)+r1ψ(1)である.

このとき k|A=h だから (A, h)≦(B, k) である. 明らかに A ⊊ B だから (A, h) の極大性に矛盾する. 故に A=N が分かり,g=hf である.

逆「Mが入射的 ⇒ ψ|I=φなるψ: R→M が存在する」は選択公理によらず成り立つ.それは次の図式から明らか.

(2 ⇒ 3) R を単項イデアル整域,M を可除R-加群とする.任意のイデアル I⊂R と任意のφ: I→M を取る.仮定2によりψ|I=φとなる準同型ψ: R→M を見つければよい.I=0 のときは自明だから I≠0 とする.R が単項イデアル整域だから,ある α(≠0)∈R を使って I=(α) と書ける.φ(α)∈M なので M の可除性により,ある m∈M が存在して φ(α)=αm となる.そこでψ: R→M をψ(r) := rm で定めれば ψ(α) = αm = φ(α) だからψ|I=φである.

(3 ⇒ 4) Zは単項イデアル整域である.

(4 ⇒ 1) 選択公理と同値な次の命題を示す.

集合族{X_λ}_{λ∈Λ}が「任意のλ∈Λに対し |Xλ|≧2 」を満たすとき, Λ上の関数 f が存在して任意のλ∈Λに対して ∅ ≠f(λ) ⊊ Xλかつ|f(λ)|<∞ となる.

同値性の証明はthe Axiom of Multiple Choiceの定理2を参照.

集合族{X_λ}_{λ∈Λ}が「任意のλ∈Λに対し |Xλ|≧2 」を満たすとする.これらは互いに素としてよい.X := ∪_{λ∈Λ}X_λと置く. X を基底とする Q 上の線形空間を V とする.以下これを可除アーベル群として考える H := < x-y | あるλ∈Λが存在して x, y∈ Xλ >⊂V は部分群で,D := V/H も可除アーベル群になる.v∈V の属する同値類を [v]∈D で表す.任意の x, y∈Xλ に対し [x]=[y] である.よって [x]∈D は x∈Xλ の取り方によらず,λのみから定まる.そこで [λ] := [x] と定める. Λで生成される自由アーベル群を F とする.

|Xλ|<∞ のとき mλ := |Xλ|
|Xλ|=∞ のとき mλ := 2

として,f(λ) := mλλと g(λ) :=[λ] により,単射準同型 f: F→F と準同型 g: F→D が得られる.仮定4より可除アーベル群 D は入射的,よって準同型 h: F→D でhf=g を満たすものが存在する.λ∈Λに対して

[λ] = g(λ) = h(f(λ)) = h(mλλ) = mλh(λ).

h(λ)∈D = V/H だから,あるvλ∈Vを使って h(λ)=[vλ] と書ける.vλ = Σx∈Xα(vλ)xx (α(vλ)xQは有限個を除いて0) と一意的に書けて,このとき

[λ] = mλh(λ) = mλvλ] =[mλvλ] =[Σx∈Xmλα(vλ)xx].

任意の y∈Xλ を一つ取れば取れば [λ] = [y] だったから [y] = [Σx∈Xmλα(vλ)xx] である. 故に(mλα(vλ)y-1)y+Σx≠ymλα(vλ)xx∈H だから, 任意の x∈Xλ に対して mλα(vλ)xZ となる. よってある nxZ が存在して α(vλ)x = nx/mλ と書ける.このとき

x∈Xλmλα(vλ)xx] = [Σx∈Xλnxx] = Σx∈Xλnx[x] = Σx∈Xλnx[λ]

だから Σx∈Xλnx = 1 である. 従って α(vλ)x∈(1/mλ)Z かつ Σx∈Xλα(vλ)x = 1/mλ が分かった.そこで

nλ := min{ n>0 | あるx∈Xλに対して α(vλ)x≡n/mλ (mod 1) }
Fλ := { x∈Xλ | α(vλ)x≡nλ/mλ (mod 1) }

とすれば(これらは vλ の取り方によらない),Fλ⊂Xλ, 0<|Fλ|<∞である.

あとは Fλ ⊊ Xλ を示せばよい.これは |Xλ|=∞ のときは明らかだから |Xλ|<∞ としてよい.Fλ=Xλ と仮定する.即ち任意の x∈Xλ に対し α(vλ)x≡nλ/mλ (mod 1)である.このとき1/mλ = Σx∈Xλα(vλ)x≡(nλ/mλ)mλ≡0 (mod 1) となりmλ>1に矛盾する.

定理4 次の命題は(ZF上)同値

  1. 選択公理
  2. 任意の環 R とR-加群の族 { Mλ }λ∈Λ に対して

    全てのλ∈Λについて Mλ が射影的 ⇒ M :=⊕λ∈Λ Mλ が射影的

  3. 任意の環 R に対して,任意の自由R-加群は射影的
  4. 任意の自由アーベル群は射影的
  5. ある環 R が存在して,任意の自由R-加群は射影的

証明(1 ⇒ 2) 任意の全射準同型 f: N→L と準同型 g: M→L を取る. λ∈Λに対し iλ: Mλ→M を標準的な埋め込みとして, Aλ := { hλ: Mλ→N | fhλ = giλ } と置く.Mλは射影的だから Aλ≠ ∅ である.よって選択公理により (hλ)∈Πλ∈Λ Aλ が取れる.すると直和の普遍性から h: M→N でhiλ=hλ となるようなものが存在する.このとき fhiλ = fhλ = giλ だから f=g である.

逆「 M が射影的 ⇒ 各 Mλ が射影的」は選択公理によらず成り立つ.

(2 ⇒ 3) R 自身をR-加群とみるとき,R は射影的.よって自由R-加群 ⊕R は射影的である.

3⇒4 と 4⇒5 は明らか.

(5 ⇒ 1) 選択公理と同値なAMCを示す.

AMC (= the Axiom of Multiple Choice)とは次の命題のこと.

非空集合の族{X_λ}_{λ∈Λ}に対し,有限集合の族{F_λ}_{λ∈Λ}
任意のλ∈Λに対してF_λ⊂X_λとなるものが存在する.

同値性の証明はthe Axiom of Multiple Choiceを参照.

{X_λ}_{λ∈Λ}を互いに素な非空集合の族とする.X:=∪_{λ∈Λ}X_λと置く.Λで生成される自由R-加群を M とし,X で生成される自由R-加群を N とする.Xλの元をλに写す全射 X→Λ から自然に 全射準同型 f: N→M が得られる.仮定より自由R-加群 M は射影的,よってある h: M→G が存在して fh=idM となる.λ∈Λ⊂M に対し h(λ) = Σx∈Xαλ, xx (αλ, x∈Rは有限個を除いて0) と書く.λ = fh(λ) = Σμ∈Λx∈Xμαλ, x)μ であり, 表現の一意性から Σx∈Xλαλ, x=1 となる.故に Fλ := { x∈Xλ | αλ, x≠0 }⊂Xλは空でない有限集合である.

「AMC ⇒選択公理」には基礎の公理が使われているので,5⇒1 の証明も基礎の公理を使っていることになる.4⇒1 は基礎の公理を使わずに証明できる.

証明 選択公理と同値な次の命題を示す.

集合族{X_λ}_{λ∈Λ}が「任意のλ∈Λに対し |Xλ|≧2 」を満たすとき, Λ上の関数 f が存在して任意のλ∈Λに対して ∅ ≠f(λ) ⊊ Xλかつ|f(λ)|<∞ となる.

5⇒1 の証明と同様にしてαλ, xZを定めてFλ := { x∈Xλ | αλ, x>0 } と定める.勿論 ∅ ≠Fλ⊂Xλ である.今 Σx∈Xλαλ, x=1 で |Xλ|≧2 だから Fλ=Xλ はありえない.故に ∅ ≠Fλ ⊊ Xλ となる

定理5 k を体とするとき,次の命題は同値

  1. 選択公理
  2. k-線型空間は入射的.
  3. k-線型空間は射影的.
  4. 基底を持つk-線型空間は射影的.

証明 (1 ⇒ 2)体は単項イデアル整域で,線型空間は可除だから定理3の条件3より明らか.

(2 ⇒ 1)選択公理と同値な「任意の k-線型空間 V とその部分空間 A に対し, A の補空間 B が存在する」を示す.

同値性の証明については線型空間を参照.

V を k-線型空間とし A⊂V を部分空間とする.仮定(2)より A は入射的である.故に,次の図式を可換にする線型写像 f: V→A を得る.

B := ker f とすれば A⊕B = V である.

(1 ⇒ 3) V を k-線型空間 V とする.選択公理により V の基底が存在し, V は自由 k -加群である.故に定理4の条件3により V は射影的である.

(3 ⇒ 4)明らか.

(4 ⇒ 1)AMCを示す. { Xλ } λ∈Λ を互いに素な非空集合の族とする. X := ∪λ∈ΛXλ と置く. f: X→Λ を f(x) := (x∈Xλ となる λ ) で定める.集合 B に対して k(B) で B を基底とする k-線型空間を表すと, f から線型写像 f-: k(X)→k(Λ) が自然に得られる. f が全射だから, f- も全射である.仮定(4)より, k(Λ) は射影的,よって次の図式を可換にする線型写像 g: k(Λ)→k(X) が存在する.

λ∈Λ に対し g(λ)=Σx∈Xa(x, λ)x と一意に表す.この表示を使って

Fλ:= { x∈Xλ | a(x, λ)≠0 }

と置く. Σx∈Xa(x, λ)x は有限和だから Fλ も有限集合である.また

λ
= idk(Λ)(λ)
= f-(g(λ))
= f-x∈Xa(x, λ)x)
= Σx∈Xa(x, λ)f-(x)
= Σλ∈Λbλλ (bλ := Σx∈Xλa(x, λ))

となるから,表現の一意性より a(x, λ)≠0 となる x∈Xλ は存在する.即ち Fλ≠ ∅ .故にAMCが成り立つ.

では EI(Ab) や EP(Ab) そのものは ZF で証明できるのであろうか,というと以下のことが知られている.

定理 非自明な入射的アーベル群の存在は ZF で証明できない.よって EI(Ab) は ZF で証明できない.

また, EP(Ab) からDMC(従属選択公理についてを参照)が従うことが知られている.ここから EP(Ab) が ZF で証明できないことが分かる.

定理 EP(Ab) ⇒ DMC

証明 DMCと同値な次の命題を示す.

{ Xn }n=0 を互いに素な非空集合の族で, |X0|=1 とする. X := ∪n=0Xn として,全射 f: X→X は「x∈Xn+1 に対して f(x)∈Xn」を満たすとする.このときある { Fn }n=0 が存在して Fn⊂Xn, 0 < |Fn| < ∞, f(Fn+1)=Fn となる.

これを示すため, G を X で生成される自由アーベル群とする. X0={ x0 } と書く. EP(Ab) により射影的アーベル群 P と全射準同型 f: P→G が存在する. g: G→G を

g(x) := 0 (x∈X0)
g(x) := f(x) (x∈X\X0)

により定まる準同型とする.g は全射である.よって gf も全射である.

P が射影的だから,ある h: P→P が存在して f=gfh となる. f は全射だから f(p)=x0 となる p∈P が存在する.

En := { x∈Xn | xがfhn(p)∈Gの表示に現れる }

として F0 := E0 , Fn+1 := En+1∩f-1(Fn) と定める.もちろん Fn⊂Xn, 0 < |Fn| < ∞ である.よって f(Fn+1)=Fn を示せばよい. f(Fn+1)⊂Fn は定義から明らか. x∈Fn とする. En+1={ y0, …, ys } と置けば fhn+1(p)=m0y0+…+msys と書ける.よって fhn(p)=gfhhn(p)=g(fhn+1(p))=m0g(y0)+…+msg(ys) である. x∈En だから,ある番号 i について x=g(yi)=f(yi) となる.故に yi∈En+1∩f-1(Fn)=Fn+1 であり, x∈f(Fn+1) となる.

EP(Ab)⇒ Urysohnの補題

証明 DMC ⇒ Urysohnだからである.Urysohnの補題を参照.

参考文献

コメント

匿名 | 2020年1月15日 19:43

定理4(1⇒2)の証明の最後の行は
『 fh=g である.』
の誤植ですね

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