2012年02月04日更新

環のSubdirect Decomposition

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ここでは環に乗法単位元1の存在を仮定しない.1を含む環を単位的環と呼ぶ.

定義 {Sλ}λ∈Λを環の族として. R⊂Πλ∈Λ Sλを部分環とする. 任意のλ∈Λに対して標準射影πλ: R→Sλが 全射であるとき,Rを {Sλ} のsubdirect productという.

あるλ∈Λについてπλが同型となるとき,自明なsubdirect productという.

以下,subdirect productを部分直積と訳すことにする.

定義 環Rがsubdirectly irreducible
⇔ Rを部分直積として表したとき,それが常に自明な部分直積になる.

以下,subdirectly irreducibleを部分直既約と訳すことにする.

命題1 {Sλ}λ∈Λを環の族とするとき
Rが{Sλ}の部分直積である
⇔ Rの(両側)イデアルの族 {Iλ}λ∈Λが存在して R/Iλ ≅ Sλ かつ ∩λ∈Λ Iλ=0 となる.

証明(⇒) Iλ := kerπλ とすればよい.

(←) φ: R→Πλ∈Λ R/Iλ を φ(r) := (r+Iλ)λ∈Λで定める. ker(φ)=∩λ∈ΛIλ=0だからφは単射. そこでφと同型R/Iλ ≅ Sλにより RをΠλ∈ΛSλの部分環とみなす. このときπλは自然な全射 R→R/Iλと一致するから,明らかに全射である. 故に,Rは {Sλ} の部分直積である.

命題2 環Rに対し A(R) := { I⊂R | Iは零でないイデアル }, H(R) := ∩I∈A(R) I と置く.H(R) は R のイデアルである.このとき
Rが部分直既約 ⇔ H(R)≠0.

証明(⇒) H(R)=0とする.このとき命題1により Rは { R/I }I∈A(R) の部分直積である. 明らかに標準射影 πI: R→R/I は同型でないから, この部分直積は自明でない.故にRは部分直既約でない.

(←) R⊂Πλ∈ΛSλを部分直積とすると, 命題1によりイデアルの族 { Iλ }λ∈Λが存在して R/Iλ ≅ Sλ, ∩λ∈Λ Iλ=0となる. 今仮定からH(R)≠0だから,∩λ∈Λ Iλ=0となる為には あるλ∈Λに対してIλ=0でなければならない. このときπλ: R→Sλは全射である.

補題3 部分直既約な単位的可換環は極大イデアルを持つ.

証明Rを部分直既約な単位的可換環としてH:=H(R)と書く. 命題2によりH≠0である. Ann(H) := { r∈R | 任意のh∈Hに対しrh=0 } ⊂R が極大イデアルであることを示せばよい.

その為に Ann(H) ⊊ I⊂R をイデアルとする.x∈I\Ann(H) を一つ取る.x ∉ Ann(H) だから,ある h0∈H が存在してxh0≠0 となる.故に h0I⊂R は零でないイデアル.Hの定義からH⊂h0I,故にある y∈I が存在して h0 =h0y と書ける.このとき h0(1-y) = 0 だから 1-y は零因子である.よってAnn(1-y) := { r∈R | r(1-y)=0 } は零でないイデアル.従ってHの定義からH⊂Ann(1-y)となる.即ち任意の h∈H に対して h(1-y) = 0 だから 1-y∈Ann(H)⊂Iである.従って 1 = (1-y)+y∈I だから,I=Rである.

定理次の命題は(ZF上)同値.

  1. 選択公理
  2. 任意の環は部分直既約な環の部分直積である.
  3. 任意の一意分解整域は部分直既約な環の部分直積である.
  4. 任意の環Rに対して,ある部分直既約な環S≠0と全射環準同型R→Sが存在する.
  5. 任意の一意分解整域Dに対して,ある部分直既約な環S≠0と全射環準同型D→Sが存在する.

証明(1 ⇒ 2) Rを環とする.r∈R\{0} に対し Xr := { I⊂R | Iはイデアル,r ∉ I }, Yr := { I∈Xr | Iは(Xr, ⊂)の極大元 } と置くとZornの補題によりY_r≠ ∅ である.

0∈XrだからXr≠∅. C⊂Xr を部分全順序集合とする. I := ∪J∈C J と置けば I⊂R はイデアルである. 全ての J∈C について r ∉ J だから r ∉ I. 従って I∈Xr である.よってCは上界を持つ.

故に選択公理により { Yr }r∈R\{0} の選択関数 f が存在する.このときYrの定義から∩r∈R\{0} f(r)=0 となる. 故に命題1により,R は { R/f(r) }r∈R\{0} の部分直積である. また各 r∈R\{0} について R/f(r) は部分直既約となる.

f(r)⊂R は極大イデアルだから,A(R/f(r)) = ∅.故に H(R/f(r))≠0 なので命題2により R/f(r) は部分直既約である.

従ってRは部分直既約な環の部分直積である.

(2 ⇒ 3) 明らか.

(2 ⇒ 4) R を環とする.仮定2によりある部分直既約な環の族 { Sλ }λ∈Λ が存在してR は { Sλ }λ∈Λ の部分直積である.このときλ∈Λを一つ取ると標準射影πλ∈Λ: R→Sλは全射である.

(3 ⇒ 5) 2 ⇒ 4と同様.

(4 ⇒ 5) 明らか.

(5 ⇒ 1) 任意の一意分解整域Dが極大イデアルを持つ事を示せばよい.

環の極大イデアルの存在を参照.

仮定により,部分直既約な環 S≠0 と全射環準同型φ: D→S が存在する.φが全射だからSは単位的可換環である. 故に補題3により S は極大イデアル m を持つ. このとき φ-1(m)⊂D がDの極大イデアルとなる.

参考文献

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