2012年10月20日更新

Krullの定理⇒選択公理 の別証明

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Xを集合,kを体とする.Xの元を不定元とする多項式環 k[X] の「係数1の単項式全体がなす集合」をMと置く.任意の f∈k[X] に対して,ある q0, …, qn∈k×と相異なる m0, …, mn∈M が一意に存在してf=q0m0+…+qnmnと書ける.このとき Mf := { m0, …, mn } と書く.また,部分集合 A⊂k[X] が生成する k[X] のイデアルを (A) で表すことにする.(A) = { f0m0+…+fnmn | n≧0, fi∈k[X], mi∈A } である.

定義 部分集合 A⊂k[X] がconservative ⇔ ∪f∈AMf⊂A.

命題1 イデアル a⊂k[X] がconservative ⇔ ある部分集合 N⊂M が存在して a=(N) と書ける.

証明(⇒) N := ∪f∈aMf と置く.aがconservativeだからN⊂a,従って(N)⊂aである.一方,f∈a とすれば Mf⊂N だから f∈(Mf)⊂(N) となる.

(←) f∈(N) のとき Mf⊂(N) であるから明らか.

k[X] のconservativeなイデアル全体のなす集合を c-I(k[X]) で表すことにする.c-I(k[X]) は包含関係⊂により順序集合である.以下,このページでは「順序」と書いたら常に⊂による順序を表す.σ: P(M)→c-I(k[X]) をσ(N) := (N) で定める.これは順序を保つ写像である(即ちN0⊂N1⇒σ(N0)⊂σ(N1)となる).命題1によればσは全射である.

k[X]のconservativeな素イデアル全体を c-Spec(k[X]) で表すことにする. X⊂M であるから P(X)⊂P(M) である. よって制限写像σ|P(X)を考えることが出来る.

命題2

  1. σ|P(X)は単射である.
  2. Image(σ|P(X)) = c-Spec(k[X]).
  3. σ|P(X): P(X)→c-Spec(k[X]) は順序同型である.

証明 (1) 明らか.

(2) Y⊂X に対してσ(Y)=(Y) は素イデアルである.よって Image(σ|P(X))⊂c-Spec(k[X]) である.p∈c-Spec(k[X]) とする.σ(X∩p)⊂σ(p)=p は明らかである.逆に,任意の f∈p に対して f∈σ(X∩p) である.

pがconservativeだからMf⊂pである.

任意の m∈Mf を取る.ある x0, …, xn∈X が存在して m=x0… xn と書ける.m∈Mf⊂pで,pは素イデアルだからある0≦i≦nに対してxi∈pである.よって xi∈X∩p だから,m=(m/xi)xi∈σ(X∩p)である.m∈Mf は任意だったから,f∈σ(X∩p)となる.

よってσ(X∩p)=pである.以上より Image(σ|P(X))=c-Spec(k[X]).

(3) (2)の証明から分かるように,σ|P(X)の逆写像は p |→ X∩p である.故に Y, Z∈P(X) に対して「Y⊂Z ⇔ σ|P(X)(Y)⊂σ|P(X)(Z)」となる.

定義 Xを集合とする.

  1. F⊂P(X) が有限性を持つ
    ⇔「Y∈F ⇔ 任意の有限部分集合 Z⊂Y に対して Z∈F」
  2. Fin(X) := { F⊂P(X) | Fは有限性を持つ }
  3. F∈Fin(X) に対して A(F) := ∪Y∈F(Y)
  4. 部分集合 A⊂k[X] に対して c-Spec⊂A(k[X]) := { p∈c-Spec(k[X]) | p⊂A }

F∈Fin(X) とすると,F⊂P(X) であるからσ|F=σ|P(X)|Fを考えることが出来る.

補題3 Image(σ|F) = c-Spec⊂A(F)(k[X])

証明 簡単のため,この証明の中だけ「(k[X])」を略す. 命題2で示したように,σ|P(X): P(X)→c-Spec は順序同型であった.よって P(X)∩σ-1(c-Spec⊂A(F)) = F を示せば良い.I⊂A(F) = I⊂A(F)(k[X]) := { a⊂k[X] | aはイデアル,a⊂A(F) } と置けば

P(X)∩σ-1(c-Spec⊂A(F))
= P(X)∩σ-1(c-Spec∩I⊂A(F))
= P(X)∩σ-1(c-Spec)∩σ-1(I⊂A(F))
= P(X)∩{ N⊂M | σ(N)=(N)⊂A(F) }
= { Y⊂X | (Y)⊂A(F) }

である.故に { Y⊂X | (Y)⊂A(F) } = F を示せば良い.

A(F) = ∪Y∈F(Y) だから⊃は明らか.

Y⊂X が (Y)⊂A(F) を満たすとする.任意の有限部分集合 Z⊂Y に対して Z∈F である.

Z⊂Y で Z が有限だからΣz∈Zz∈(Y)⊂A(F)=∪W∈F(W) である.即ちあるW∈F が存在して Σz∈Zz∈(W) となる.このとき明らかに Z⊂W でなければならない.Z は有限集合だったから,F の有限性により Z∈F である.

Z は任意だったから,再び F の有限性により Y∈F である.故に { Y⊂X | (Y)⊂A(F) }⊂F が分かった.

補題4 F⊂P(X) は有限性を持つとする.a∈I⊂A(F)(k[X]) と f∈a と m∈Mf に対して (m)+a∈I⊂A(F)(k[X])である.

証明 任意の g∈a を取る.自然数 e を,どの n∈Mg も me で割り切れないように取る.h := mef+g∈a とすれば,a⊂A(F) だからある Y∈F が存在して h∈(Y) である.e の取り方から me+1∈Mh かつ Mg⊂Mh が分かる.補題3により (Y) はconservativeだからme+1∈(Y) かつ Mg⊂(Y) である.(Y) は素イデアルだから m∈(Y) となる.故に,任意のα∈k[X] に対して αm+g⊂(Y)⊂A(F) である. 即ち (m)+a⊂A(F).

補題5 F⊂P(X) は有限性を持つとする.a∈I⊂A(F)(k[X]) とする.このとき c-I⊃a(k[X]) := { b∈c-I(k[X]) | b⊃a } は最小元 c を持ち,c⊂A(F) を満たす.

証明 N := ∪f∈aMf として c := (N) と置く.明らかに c=min(c-I⊃a(k[X])) である.よって c⊂A(F) を示せば良い.その為に任意の g∈c を取る.c の定義から,ある m0, …, mn∈N とα0, …, αn∈k×が存在して g=α0m0+…+αnmn と書ける.N の定義から,ある f0, …, fn∈a が存在して mi∈Mfiとなる.よって補題4を使えば,0≦i≦nに対して帰納的に (mi)+((mi-1)+…+(m0)+a)⊂A(F) であることが分かる.従って g∈A(F) である.

命題6 F⊂P(X) は有限性を持つとする.このとき Spec⊂A(F)(k[X]) の極大元はconservativeイデアルである.

証明 a∈Spec⊂A(F)(k[X]) を極大元とする.勿論 a∈I⊂A(F)(k[X]) であるから,補題5により c := min(c-I⊃a(k[X])) は存在し,c⊂A(F) である.c は素イデアルである.

fg∈c とする.c⊂A(F)=∪Y∈F(Y) だから,ある Y∈F が存在して fg∈(Y) である.(Y) は素イデアルだから,f∈(Y) または g∈(Y) となる.今,c はconservativeだから (Y)⊂c である.故に f∈c または g∈c となる.即ち,c は素イデアルである.

よって a⊂c∈Spec⊂A(F)(k[X]) であるが,a の極大性により a=c となる.よって a はconservativeである.

順序集合Aの極大元全体がなす集合をm(A)で表すことにする.

命題7 X を任意の集合,k を任意の体,F∈Fin(X) とする.このとき全単射 m(F)→m(c-Spec⊂A(F)(k[X])) が存在する.

証明 補題3により,σ|F: F→c-Spec⊂A(F)(k[X]) は全単射である.σは順序同型だったから,σ|Fも順序同型であり,よってσ|m(F): m(F)→m(c-Spec⊂A(F)(k[X]))は全単射である.

F∈Fin(X)とする.A(F)=∪Y∈F(Y) は素イデアルの和集合であるから,S := k[X]\A(F) は積閉集合である.故に局所化 k[X]A(F)=S-1k[X] を考えることが出来る.良く知られているように,自然な写像 k[X]→k[X]A(F) によって順序同型ρ: Spec(k[X]A(F))→Spec⊂A(F)(k[X]) が得られる.

命題8 ρは全単射 m(Spec(k[X]A(F)))→m(c-Spec⊂A(F)(k[X])) を与える.

証明 a∈m(Spec(k[X]A(F))) とする.ρは順序同型だから,ρ(a)は Spec⊂A(F)(k[X]) の極大元である.故に命題6によりρ(a)∈c-Spec⊂A(F)(k[X]) となる.このとき明らかにρ(a)∈m(c-Spec⊂A(F)(k[X])) である.

定理X を任意の集合,k を任意の体,F∈Fin(X) とするとき,次の条件は同値.

  1. F は極大元を持つ.
  2. k[X]A(F) は極大イデアルを持つ.

証明 命題7命題8により明らか.

定理Krullの定理⇒選択公理

証明 Tukeyの補題「有限性を持つ集合は極大元をもつ」は選択公理と同値である(詳しくはZornの補題・極大原理の定理1を参照).故に前定理から明らか.

参考文献

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