2013年03月24日更新

Banach-Tarskiの定理

PDF版

定義

G3R3 の回転と平行移動がなす群とする.

定義 X, Y⊂R3 が分割合同 (X~Yで表す)
⇔ あるn∈NとXi, YiR3, σi∈G3 (0≦i≦n)が存在して X = X0\sqcup\sqcupXn, Y = Y0\sqcup\sqcupYn, Yi = σiXi

命題

  1. 分割合同~は同値関係である.
  2. X0~Y0, X1~Y1 ならば X0⊕X1~Y0⊕Y1 である.特に X0∩X1 = ∅, Y0∩Y1 = ∅ ならば X0\sqcupX1~Y0\sqcupY1となる.

Banach-Tarskiの定理 B := { (x, y, z)∈R3 | x2+y2+z2≦1 } とすればB~B⊕B.

これを証明するために,まず分割合同の例を二つあげる.

適当な方法で S1 = { x∈C | |x|=1 }⊂R3とみなす.

X := { en√-1 | n∈N }, Y := S1\X とする.原点を中心とした1ラジアンの回転をσとすればσX = { en√-1 | n>0 } = X\{1} であるから S1 = X\sqcupY ~ (X\{1})\sqcupY = S1\{1}となる.即ち「円周から一点を抜いた集合」は円周と分割合同である.

O∈R3 を原点として,(適当に縮小した)S1を B の中に O∈B∩S1 となるように埋め込めば B = (B\S1)\sqcupS1 ~ (B\S1)\sqcup(S1\{O}) = B\{O} だから「球体から原点を抜いた集合」は球体と分割合同である.

これらの例から分かるように,分割合同というのは(物理的には)かなり変な分割の仕方も許している. また,次のことが分かる.

命題 S2~S2⊕S2 とする. このとき B~B⊕B

証明 S2 = X0\sqcup\sqcupXn, S2⊕S2 = Y0\sqcup\sqcupYn, YiiXi とする.X⊂S2に対してh(X) := { tx | x∈X, 0<t≦1 } とすれば h(S2) = B\{O} となり,B\{O} = h(X0)\sqcup\sqcuph(Xn), B\{O}⊕B\{O} = h(Y0)\sqcup\sqcuph(Yn), h(Yi) =σih(Xi) である.故に B~B\{O}~B\{O}⊕B\{O}~B⊕B である.

故に,後は S2~S2⊕S2 を示せばよい.

定義 Xを集合とする.有限列の集合{ x1… xn | n∈N, xi∈X∪X-1 } に積を列の結合 (x1… xn)・(y1… ym) := x1…xny1…ym で定めるとこれは群になる(ただし,x と x-1 が隣り合ったときはキャンセルする.また空文字列を単位元とみなす).これを X で生成される自由群という.

二元集合{ρ, τ}で生成される自由群を F2 と書く.

命題 W(σ) := { x1…xn∈F2 | x1=σ} と置けば

F2 = {1}\sqcupW(ρ)\sqcup W(ρ-1)\sqcupW(τ)\sqcupW(τ-1)
= W(ρ)\sqcupρW(ρ-1)
= W(τ)\sqcupτW(τ-1).

Banach-Tarskiの証明において,選択公理を使用するのは次の部分だけである.

命題1 選択公理を仮定する.F2 が集合 X⊂R3 に自由に作用しているとき,ある A, B⊂X が存在して A\sqcupB⊂X, X~A~B

群GのXへの作用が自由である
⇔ 任意のg∈G, x∈Xに対して「gx=x⇒g=e」

証明 X に同値関係 R を「xRy ⇔ あるσ∈F2が存在してy=σx」で定める.選択公理により商集合 X/R の完全代表系 M を取ることができる.すると作用が自由であるから X = \sqcupσ∈F2σM となる.

A0 := \sqcupσ∈W(ρ)σM, A1 := \sqcupσ∈W(ρ-1)σM, A := A0\sqcup A1
B0 := \sqcupσ∈W(τ)σM, B1 := \sqcupσ∈W(τ-1)σM, B := B0\sqcup B1

と置けば,X = A0\sqcupρA1 = B0\sqcupτB1⊃A0\sqcupA1\sqcupB0\sqcupB1 であるから A\sqcupB⊂X かつ X~A~B となる.

定義 A, B⊂R3 に対して二項関係≦を次のように定める.

A\precsimB ⇔ ある B'⊂B が存在して A~B'

Banach-Bernstein-Schröderの定理 A\precsimB かつ B\precsimAならば A~B.

証明 A~Bのとき,全単射 f: A→B で「任意の A'⊂A に対して A'~f(A') 」を満たすものが取れることに注意しておく.

A\precsimB かつ B\precsimA とする.ある A'⊂A と B'⊂B が存在して A~B' かつ B~A' である.よって全単射 f: A→ B' と g: A'→B で先の条件を満たすものが取れる.A0 := A\A', An+1 := g-1(f(An)), X := \sqcupn=0Anと定める.

X⊂A, A\X⊂A' だから X~f(X), A\X~g(A\X) である.従って A = X\sqcup(A\X)~f(X)\sqcupg(A\X) = B が分かる.

命題 R3の原点を中心とする回転がなす,G3の部分群をSO(3)で表す. SO(3)はF2と同型な部分群を持つ.

証明 θ=arccos(1/3)として,R3のz軸を軸とするθラジアンの回転をρ,x軸を軸とするθラジアンの回転をτとすればρ, τが生成するSO(3)の部分群はρ, τが生成する自由群F2であることが分かる.

この命題によりF2⊂SO(3)とみなせば,F2は球面S2に作用する.各元σ∈F2の不動点x∈S2は丁度2つある.よって D := { x∈S2 | あるσ∈F2が存在してσ x=x } は可算集合である.このとき F2 は X := S2\D に自由に作用する.故に命題1からある A, B⊂X, A∩B = ∅ が存在して A~X かつ B~X である.A, B の取り方から X~B⊂X\A⊂X,即ち X\precsimX\A かつ X\A\precsimX であるからBanach-Bernstein-Schroederの定理により X\A~X が分かる.改めて B := X\A と書き直せば X = A\sqcupB~A~Bが分かる.即ち,S2\D~(S2\D)⊕(S2\D)である.

命題 S2~ S2⊕S2

証明 σ∈SO(3)で D, σ D, σ2D, …が互いに素となるものが存在する.

Dを通らない,原点を通る直線l⊂R3を一つ取る. 正整数n>0とP∈Dに対して

A(n, P) := { θ∈(0, 2π) | lを軸とするθラジアン回転をσとすればσn(P)∈D }

と書くとA(n, P)は可算集合である.故に A := ∪n=0P∈DA(n, P) は可算集合である.

可算和定理を使えば明らかであるが,選択公理を使わずに可算といえる.何故か? また,実はDが可算であるという部分でも同様の問題が発生している.

故に (0, 2π)\A≠∅ であるからθ∈(0, 2π)\A を一つ取りlを軸とするθラジアンの回転をσ∈SO(3)とすればこれが条件を満たす.

このとき Y := S2\(∪n=0σnD) と置けば S2 = Y\sqcupl(∪n=0σnD)~Y\sqcup(∪n=0σ^{n+1}D) = S2\D である.故に S2~S2\D~(S2\D)⊕(S2\D)~S2⊕S2 となる.

以上により次が証明された.

Banach-Tarskiの定理 B~B⊕B

強Banach-Tarskiの定理 内部が空でない有界部分集合 X, Y⊂R3 に対して X~Y.

証明 仮定によりある球体 K, L が存在して X⊂K かつ L⊂Y となる.n∈Nを十分大きく取り,L のn個のコピー L1, …, Ln で K を被覆する.このとき X⊂K\precsimL1⊕…⊕Ln~L⊂Y より X\precsimY が分かる.同様にして Y\precsimX だから X~Y となる.

ところで,Banach-Tarskiの定理の証明で選択公理を使っている部分は命題1のみであった.実は命題1はHahn-Banachの定理から導かれる.

定義 Bをブール代数とする.
μ: B→[0, 1] が B 上の有限加法的測度
⇔ μ(1)=1 かつ「x∧y=0 ⇒ μ(x∨y)=μ(x)+μ(y)」

定理 Hahn-Banachの定理
⇔ 任意のブール代数 B について B 上の有限加法的測度が存在する.

定理 Hahn-Banachの定理 ⇒ 命題1

証明 命題1の証明の X/R を考える.U∈X/R に対してブール代数 BU := P(U) を考え,ブール代数の直和 B := ⊕U∈X/RBU を取る.iU: BU→B を標準埋込とする.Hahn-Banachの定理により,B 上の有限加法的測度μが取れる.μU := μiUと置く.V(σ) := { x1…xn∈F2 | xn=σ } として

X1 := { x∈X | μ[x](V(ρ)x) > 1/2 }
X2 := { x∈X | μ[x](V(τ)x) > 1/2 }
X3 := { x∈X | μ[x](V(ρ-1)x) > 1/2 }
X4 := { x∈X | μ[x](V(τ-1)x) > 1/2 }
Y1 := X\(ρX1∪τX2)
Y2 := X\(ρ-1X3∪τ-1X4)

と定める.X = ρX1∪τX2∪ρ-1X3∪τ-1X4である.

任意のx∈Xを取る.V(ρ)x, V(τ)x, V(ρ-1)x, V(τ-1)x⊂[x]は互いに素だからμ[x](V(ρ)x)+μ[x](V(τ)x)+μ[x](V(ρ-1)x)+μ[x](V(τ-1)x)≦1となる.よってこの4つのうち少なくとも1つは <1/2 となる.

どの場合でも同様なのでμ[x](V(ρ)x)<1/2 だとする.F2 = V(ρ)\sqcup V(ρ-1)ρだからμ[x](V(ρ)x)+μ[x](V(ρ-1)ρx)=1 となるので,μ[x](V(ρ-1)ρ x)>1/2 である.故にρx∈X3,即ちx∈ρ-1X3である.以上により X=ρX1∪τX2∪ρ-1X3∪τ-1X4が分かった.

従って Y1∩Y2 = ∅ である.また明らかに X1, X2, X3, X4 は互いに素である.

Y1 と X1 は互いに素である.

V(ρ)⊂V(τ)τ-1だから

X1 = { x∈X | μ[x](V(ρ)x) > 1/2 }
⊂{ x∈X | μ[x](V(τ)τ-1x) > 1/2 }
= { τx∈X | μ[x](V(τ)x) > 1/2 } = τX2

である.よって Y1∩X1 = ∅.

同様にして i=1, 2, j=1, 2, 3, 4 に対して Yi∩Xj = ∅ が分かる.

X2'⊂X2, X4'⊂X4 を ρX1∪τX2=ρX1\sqcupτX2', ρ-1X3∪τ-1X4-1X3\sqcupτ-1X4' となるように取る.A = X1\sqcupX2'\sqcupY1, B := X3\sqcupX4'\sqcupY2 と置けば A\sqcup B⊂X かつ X~A, X~B である.

Hahn-Banachの定理⇒Banach-Tarskiの定理

Banach-Tarskiの証明から得られる B の分割の仕方を見ると,この分割が物理的に可能であったとしても,物理的に移動させることが不可能のようにみえる.そこで,《物理的な移動まで含めた分割合同》というものを考えてみる.

定義 X, Y⊂R3とする.
X\approxY ⇔ n∈N, Xi, YiR3,連続写像γi: [0, 1]→G3 (0≦i≦n) が存在して以下を満たす.

命題 \approxは同値関係である.

定義 u∈R3に対してσu∈G3を σu(x) = x+u で定める.

命題 X, Y⊂R3を有界部分集合とし,u, v∈R3を X∩σuY = ∅, X∩σvY = ∅ となるように取る.このときX\sqcupσuY\approx X\sqcupσvY

証明 略 (PDF版参照。こっちはそのうち書きます)

命題X0, X1R3を互いに素な有界集合, σ0, σ1∈G3, σ0X0∩σ1X1=∅とするとき X0\sqcup X1\approxσ0X0\sqcupσ1X1

証明 略 (PDF版参照)

命題 内部が空でない有界部分集合 X, Y⊂R3に対してX\approxY

証明 強Banach-Tarskiの定理によりある分割 X = X0\sqcup\sqcupXn, Y = Y0\sqcup\sqcupYn とσi∈G3 が存在してσiXi = Yi となる.故に前命題を繰り返し使用して

X = X0\sqcup\sqcupXn\approxσ0X0\sqcup\sqcupσnXn = Y.

コメント

napier | 2017年11月 4日 06:33

選択公理やBanach-Tarskiには昔から興味があったので、こちらのように解説していただくと非常にありがたいです(が、力不足で途中で挫折しました・・・)。

S2~ S2⊕S2の証明中「正整数n>0とx∈Dに対して」は「正整数n>0とP∈Dに対して」でしょうか。

管理人 | 2017年11月 6日 19:46

その通りxではなくPです。ありがとうございます。

参考までに、どの辺が難しかったですか? (絵とかつけられるともうちょっと読みやすくなるかなと思いましたが……)

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