2014年08月15日更新

Tychonoffの定理の別証明

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Tychonoffの定理の証明についてはTychonoffの定理で与えているが,ここでは別証明を二つ紹介する.これらの証明を眺めることで,選択公理に関する事実がいくつか分かる為である.

ゆっくり解説 (Youtube)

定義 Xを位相空間とする.

  1. X の開集合全体のなす集合を OX で表す.
  2. X の閉集合全体のなす集合を AX で表す.
  3. X がコンパクト
    ⇔ 部分集合 U(≠ ∅ )⊂OX が X=∪U を満たすならば,ある非負整数nとあるU0, …, UnUが存在して X=U0∪…∪Un

    集合Aに対して ∪A := ∪B∈A B, ∩A := ∩B∈A B である.

  4. BOX が基底
    ⇔ 任意の開集合U∈OXに対してある部分集合C⊂Bが存在して U = ∪C と書ける.
  5. FAX が有限交差性(finite intersection property)を持つ
    ⇔ 任意の非負整数nと任意のF0, …, FnFに対してF0∩…∩Fn≠∅.

コンパクトという条件を考えるときには,開集合は基底の元のみを考えればよい.即ち,次の補題が成り立つ.

補題1 B を位相空間 X の基底とするとき,
X がコンパクト
⇔ 部分集合UB が X=∪U を満たすならば,ある非負整数nとあるU0, …, UnUが存在して X=U0∪…∪Un

証明⇒は明らか.逆←を示す.

UOX が X=∪U を満たすとする.U∈U に対して BU := { V∈B | V⊂U } と置けば,B が基底であることから U = ∪BU が分かる.よってV := ∪U∈U BUB と置けば X = ∪U∈U U = ∪U∈UV∈BU V = ∪V∈V V だから,仮定によりある V0, …, VnV が存在して X = V0∪…∪Vn である.このとき各 0≦i≦n について ViBUi となる UiU を取れば X = U0∪…∪Un である.

別証明1

定義 X を位相空間とする.

  1. AOX がX上admissible
    ⇔ 任意の非負整数nと任意のU0, …, UnAに対してU0∪…∪ Un≠ X.
  2. X=Π_{λ∈Λ}X_λを直積位相空間とするとき

    B(X) := { Πλ∈Λ Uλ | UλOX, 有限個のλ∈Λを除いて Uλ = Xλ }

    と置く.B(X)はXの基底である.

  3. X=Π_{λ∈Λ}X_λを直積位相空間とするとき, 標準射影X→XλをπXλで表す.πXλは連続である.

補題2 位相空間Xに対して次の命題は同値.

  1. X がコンパクト
  2. AOX がX上admissible ⇒ ∪A≠X

証明 対偶を考えればよい.

補題1を踏まれば,条件2では AB としてよいことが分かる.

補題3 Xをコンパクト位相空間,Yを位相空間とし,AB(X×Y) は X×Y 上admissibleとする.x∈Xに対して Ax := { U∈A | x∈πX(U) } と置く.このときある点x∈Xが存在してπY(Ax) := { πY(U) | U∈AX } はY上admissibleとなる.そのような点 x∈X 全体からなる集合を C(A) と書くと,C(A)⊂X は空でない閉集合である.

証明 AB(X×Y) を X×Y 上admissibleとする.

C :=

と定めると,CはX上admissibleである.

admissibleでないと仮定すると,あるV0, …, VmCが存在してX=V0∪…∪Vmと書ける.Cの定義から,あるUi0, …, UiniAが存在して

ViX(Ui0)∩…∩πX(Uini), Y=πY(Ui0)∪…∪πY(Uini)

と書ける.B(X×Y) = { U0×U1 | U0OX, U1OY } だったことに注意するとVi×Y⊂Ui0∪…∪Uiniが分かる.よって

X×Y = (V0×Y)∪…∪(Vm×Y) = U00∪…∪ Umnm

となりAがX×Y上admissibleであることに矛盾.

故にXのコンパクト性からX≠∪Cである.x∈X\∪Cを任意に一つ取ると {πY(U) | U∈Ax } はY上admissibleである.

任意のπY(U0), …, πY(Un) (UiAx)を取る.V := πX(U0)∩…∩πX(Un)と置く.UiAxだから x∈πX(Ui),故にx∈Vである.一方xの取り方により V ∉ C でなければならない.よって Y≠πY(U0)∪…∪πY(Un) が分かる.

x∈Xは任意だったからX\∪B⊂C(A)である.X\∪B ⊊ C(A)と仮定する.x∈C(A)\(X\∪C) = C(A)∩∪C が存在する.x∈V となる V∈B を取る. Cの定義から,あるU0, …, UnAが存在して

V=πX(U0)∩…∩πX(Un), Y=πY(U0)∪…∪πY(Un)

と書ける.すると明らかにU0, …, UnAXであるから,{πY(U) | U∈AX } がY上admissibleであることに矛盾する.故にC(A) = X\∪C⊂X で,これは空でない閉集合である.

定理 {X_λ}_{λ∈Λ}をコンパクト位相空間の族とする.Λは整列可能で,∪λ∈Λ(AXλ\{ ∅ })は選択関数 f を持つとする.このとき直積位相空間Π_{λ∈Λ}X_λもコンパクトである.

証明 AB(ΠXλ)をΠXλ上admissibleとする.補題2の条件2からΠXλ≠∪Aを示せばよい.その為に元y∈(Π Xλ)\∪Aの存在を示す.存在が仮定されている選択関数fを一つ取っておく.

仮定によりΛは整列可能だから,Λは順序数であるとしてよい.|Λ|=|Λ+1|だから,Λは後続型順序数としてよい.そこで順序数νを使ってΛ=ν+1と書く.同様にして,νも後続型順序数としてよい.α≦νに対してYα := Πα≦β≦ν Xβと置く.Yα = Xα×Yα+1 である.α<νに対して,帰納的に次を満たすxα∈Xαが取れることを示す.

α≦νに対してAα := { U∈A | 任意のβ<αに対してxβ∈πXβ(U) } と定義する.
このときα<νに対してπYα+1(Aα+1)はYα+1上admissible

(i) α=0のとき.
A0=A と Y0=X0× Y1補題3を適用して空でない閉集合 C0 := C(A)⊂X0 を得る. x0 := f(C0) とすれば

A1 = { U∈A | 任意のβ<1に対してxβ∈πXβ(U) } = { U∈A | x0∈πX0(U) }

だから,C0の取り方によりπY1(A1)はY1上admissibleである.

(ii) α=β+1のとき.
β<αだから,帰納法の仮定によりπYβ+1(Aβ+1)はYβ+1上admissibleである.今β+1=αだから,πYα(Aα)はYα上admissibleとなる.πYα(Aα) と Yα=Xα×Yα+1補題3を適用して空でない閉集合 Cα := C(πYα(Aα))⊂Xα を得る.xα := f(Cα)とすれば

Aα+1
= { U∈A | 任意のβ<α+1に対してxβ∈πXβ(U) }
= { U∈A | 任意のβ<α に対してxβ∈πXβ(U) } ∩ { U∈A | xα∈πXα(U) }
= Aα∩{ U∈A | xα∈πXα(U) }
= { U∈Aα | xα∈πXα(U) }

だからπXαπYαXαに気をつけると

πYα(Aα+1)
= {πYα(U) | U∈Aα, xα∈πXα(U) }
= {πYα(U) | U∈Aα, xα∈πXαYα(U)) }
= { U∈πYα(Aα) | xα∈πXα(U) }

である.よって Cα の取り方によりπYα+1Yα(Aα+1)) はYα+1上admissibleである.今πYα+1πYαYα+1だから,πYα+1(Aα+1)はYα+1上admissibleであることが分かった.

(iii) αが極限順序数のとき.
帰納法の仮定により,任意のβ<αに対してπYβ+1(Aβ+1)はYβ+1上admissibleである.定義から明らかにAαAβ+1である.よってπYβ+1(Aα)はYβ+1上admissibleとなる.πYα(Aα)はYα上admissibleである.

あるU0, …, UnAαを使ってYαYα(U0)∪…∪πYα(Un) と書けたと仮定する.A := { β<α | ある0≦i≦nが存在してπXβ(Ui)≠Xβ } と置く.各UiはY0の基底の元だから,Aは有限集合である. そこでγ := max A (A = ∅ のときはγ:=0とする)と定める.

y∈Yγ+1とする.πYα(y)∈YαYα(U0)∪…∪πYα(Un)だから,ある0≦i≦nが存在してπYα(y)∈πYλ(Un)である.このときγの取り方から,γ<β<αに対してもπXβ(y)∈ XβXβ(Ui)である.故にπYγ+1(y)∈πYγ+1(Ui)である.

従ってYγ+1Yγ+1(U0)∪…∪πYγ+1(Un)が分かった.これはπYγ+1(Aγ+1)がYγ+1上admissibleであることに矛盾する.

そこでπYα(Aα)とYα=Xα× Yα+1補題3を適用して空でない閉集合 Cα := C(πYα(Aα))⊂Xα を得る.xα := f(Cα) とすれば(ii)のときと同様にしてπYα+1(Aα+1)はYα+1上admissibleであることが分かる.

(i) (ii) (iii)によりxα∈ Xα (α<ν)が取れた.今νは後続型だったから,α+1=νとなるα<νを取るとπXα+1(Aα+1)はYα+1上admissible,即ちπXν(Aν)はYν=Xν上admissibleである.よってXνがコンパクトだから C := Xμ\∪U∈AμπXμ(U) は空でない閉集合.xν := f(C) と置く.このときy=(xα)α≦ν∈Y0はy ∉∪Aを満たす.

あるU∈Aが存在してy∈ Uとなったとする.勿論任意のα≦νに対してxα∈πXα(U)である.xν=f(C)∈ C=X\∪U∈AνπXν(U)だからU∉Aνでなければならない.従ってあるα<νが存在してxα∉πXα(U)となり,xαの取り方に矛盾する.

選択公理 ⇒ Tychonoffの定理

選択公理を使わずに次が証明できる.

  1. [0, 1]N はコンパクトである.
  2. n∈Nに対して | Xn | = 2 のとき Πn∈N Xn はコンパクト
  3. p進整数環 Zp はコンパクトである.

証明 (1) Nは整列可能である.A[0, 1]\{ ∅ } は選択関数を持つ.

f: A[0, 1]\{ ∅ }→[0, 1] を f(F) := min F で定めればよい.(Fは有界な空でない閉集合だから,最小値を持つ.)

故に定理から [0, 1]N はコンパクトであることが分かる.

(2) | Xn | = 2 だから「A∈∪n∈N(AXn\{ ∅ })で |A|≧2 となるもの」は A=Xn しかない.故に { Xn }n∈N の選択関数が存在すれば∪n∈N(AXn\{ ∅ })も選択関数を持つ事が分かる.

(i) { Xn }n∈N の選択関数があるとき,Nは整列可能だからよい.

(ii) { Xn }n∈N の選択関数がないとき,このとき Πn∈N Xn = ∅ はコンパクトである.

(3) Zp⊂Πn∈NZ/pnZ$は閉部分集合である. (1)と同様にしてΠn∈NZ/pnZはコンパクトだから,閉部分集合Zpもコンパクトである.

この | Xn | = 2 を | Xn | = 3 に変えた命題,即ち「n∈Nに対して| Xn | = 3 のとき Πn∈N Xn はコンパクト」は選択公理無しには証明できない.何故ならば,次の定理が成立するからである.

定理正整数mに対して,次が成り立つ.

n∈N に対して 0<| Xn |≦m のとき { Xn }n∈N は選択関数を持つ.
⇔ n∈N に対して | Xn |≦m+1 のとき Πn∈N Xnはコンパクト

証明(⇒) { Xn }n∈Nが | Xn |≦m+1 を満たすとする.

(i) { Xn }n∈N の選択関数がないとき.
このときはΠn∈NXn= ∅ はコンパクトである.

(ii) { Xn }n∈N の選択関数があるとき.
n∈N(AXn\{ ∅ , Xn })の元 A は 0<|A|≦m を満たす.よって∪n∈N(AXn\{ ∅ , Xn })は選択関数を持つ.{ Xn }n∈Nの選択関数とあわせれば∪n∈N(AXn\{ ∅ })が選択関数を持つ事が分かる.勿論添え字集合Nは整列可能だから,定理によりΠn∈NXnはコンパクトである.

(←) 通常の「Tychonoffの定理⇒選択公理」の証明と同様にしてできる.

別証明2

次の命題をBPI (Boolean Prime Ideal Theorem)という.

命題 [BPI]任意のブール代数は素イデアルを持つ.

命題 選択公理 ⇒ BPI

命題 BPIを仮定すると,以下が成り立つ.

  1. B がブール代数で F⊂B が有限交差性を持つとき,超フィルター U⊂B で UF となるものが存在する.
  2. 位相空間 X がコンパクト ⇔ 任意の超フィルター U⊂P(X) が収束する.

定理 選択公理 ⇒ Tychonoffの定理

証明 {X_λ}_{λ∈Λ} をコンパクト位相空間の族として, X :=Π_{λ∈Λ}X_λ とする. FAX が有限交差性を持つとする.このときBPIにより,超フィルター U⊂P(X) で UF となるものが存在する.

Uλ:= { πXλ(Y) | Y∈U } ⊂P(Xλ) は超フィルターである.よって Xλ のコンパクト性とBPIから, Cλ:= { x∈Xλ | Uλ が x に収束する } ≠ ∅ である.従って選択公理により元 x=(xλ)λ∈Λ∈Πλ∈ΛCλ⊂X が取れる.このとき x の任意の開近傍 U⊂X に対して U∈U である.

任意の λ∈Λ と開近傍 xλ∈Uλ⊂Xλ を取る. Uλ が xλ に収束することと, Uλ が超フィルターであることから, UλUλ が分かる.故にある Y∈U により UλXλ(Y) と書けるが,このとき Y⊂Uλ×Πμ≠λXμ である. U がフィルターだから Uλ×Πμ≠λXμU となる.よって,直積位相の定義から,任意の開近傍 x∈U⊂X に対して U∈U が分かる.

今, F∈F が x ∉ F を満たすと仮定する.すると X\F∋x は x の開近傍であり,よって X\F∈U である. F∈FU だったから ∅ =F∩(X\F)∈U となり矛盾する.故に任意の F∈F に対して x∈F ,即ち x∈∩F であり, X がコンパクトであることが分かった.

BPI⇒ コンパクトHausdorff空間の直積はコンパクト.

証明 先の証明で選択公理を使っている部分は三箇所ある.一つ目、二つ目はBPIを使っているところだから,BPIがあればよい.三つ目は xλ∈Cλ を取る所であるが,今 Xλ はHausdorffと仮定しているから,収束先は一意に定まる.故に選択公理を使わずに xλ を取ることができる.

参考文献

  1. Horst Herrlich, Axiom of Choice,Springer, 2006
  2. Peter A. Loeb, A New Proof of the Tychonoff Theorem, Amer. Math. Monthly, Vol. 72, No. 7 (1965), 711-717,http://www.jstor.org/stable/2314411

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