Zornの補題・極大原理
定義 Rを集合X上の二項関係とする.
- Rが反射的 ⇔ 任意のx∈Xに対してxRx
- Rが反対称的 ⇔ xRyかつyRxならばx=y
- Rが推移的 ⇔ xRyかつyRzならばxRz
- Rがconnected ⇔ xRyまたはx=yまたはyRx
- Rが前順序関係 ⇔ Rが反射的かつ推移的
- Rが順序関係 ⇔ Rが反対称的な前順序関係
- Rが全順序関係 ⇔ Rがconnectedな順序関係
- x∈Xが極大元 ⇔ 全てのy∈Xに対し「xRyならばyRx」
- x∈Xが最小元 ⇔ 全てのy∈Xに対し「x≠yならばxRy」
- x∈XがY⊂Xの上界 ⇔ 全てのy∈Yに対し「x≠yならばyRx」
- Rが整列順序関係 ⇔ Rが順序関係で,任意のY(≠∅)⊂Xに対して(Y, R)が最小元を持つ.
- Xが有限性を持つ ⇔「x∈X⇔ xの任意の有限部分集合yに対しy∈X」
- x∈Xに対してx↓ := { y∈X | yRx }
- Y⊂Xが鎖 ⇔ (Y, R)が全順序集合
定義 (X, ≦)を順序集合とする.
- Y⊂Xが反鎖 ⇔ 任意のx, y∈Yに対して「x≠yならば¬x≦y, ¬y≦x」
- (X, ≦)がramified ⇔ 任意の元x∈Xに対し(x↓, ≦)が鎖になる
定義 Xを集合,R⊂X×Xを二項関係とする.
- R-1 := { <a, b>∈X×X | <b, a>∈R }
- Rc := { <a, b>∈X×X | <a, b>∉ R }
- I := {< a, a>∈X×X | a∈X }
定理1 次の命題は(ZF上)同値.
- 順序集合Xが「Xの鎖には上界が存在する」を満たすならば,Xの極大元が存在する.(Zornの補題)
- 集合X上の推移的関係Rに対して極大鎖Y⊂Xが存在する.
- 順序集合(X, ⊂)は極大鎖を持つ.
- 順序集合(X, ⊂)が「任意の鎖C⊂Xに対してあるx∈Xが存在して, 任意のy∈Cに対してy⊂x」を満たすならば,Xの極大元が存在する.
- 順序集合(X, ⊂)が「任意の鎖C⊂Xに対して∪_{y∈C}y∈X」を満たすならば,Xは極大元を持つ.
- 有限性をもつ非空集合Xは(⊂に関する)極大元をもつ.(Tukeyの補題)
- 任意の前順序集合(X, ≦)は極大鎖を持つ.
- 任意の順序集合(X, ≦)は極大鎖を持つ.(Hausdorff's Maximal chain Condition)
- 任意の順序集合(X, ≦)の任意の鎖は,Xのある極大鎖に含まれる.
- 任意の前順序集合(X, ≦)は極大反鎖を持つ.
- 任意の順序集合(X, ≦)は極大反鎖を持つ.(Kurepa's Maximal Antichain Condition)
証明 (1 ⇒ 2) C := { Y⊂X | (Y, R)は鎖 } と定め,⊂でCに順序を入れる.この(C, ⊂)はZornの補題の仮定を満たす.
D⊂(C, ⊂)を鎖として,Z := ∪Y∈D Y と置く.(Z, R)が全順序集合である事を示す.
(i)反射律
任意のx∈Zを取る.Zの定義よりあるY∈Dが存在してx∈Yとなる.よって(Y, R)が順序集合であることよりxRxである.
(ii)反対称律
x, y∈Zに対しxRyかつyRxであるとする.Zの定義とDが鎖であることからx, y∈YとなるY∈Dの存在が分かる.このとき(Y, R)が順序集合であることよりx=y.
(iii)推移律
Rが推移的関係であることから明らか.
(iv) connected
x, y∈Zを取る.Zの定義とDが鎖であることからx, y∈YとなるY∈Dの存在が分かる.このとき(Y, R)の全順序性からxRyまたはyRxである.
以上より(Z, R)は全順序である.故にZ∈C.従って明らかにZはCの上界である.
よってZornの補題より極大元Y∈Cが存在するが,これが極大鎖である.
(2 ⇒ 3) ⊂は推移的だから,仮定2より⊂によって全順序付けされる極大部分集合が存在するが,これは明らかに(X, ⊂)の極大鎖である.
(3 ⇒ 4) 仮定3より極大鎖Y⊂Xが存在する. このYに4の仮定を適用すると,あるx∈Xが存在して, 任意のy∈Yに対してy⊂xとできる.このxがXの極大元である.
(4 ⇒ 5) 明らか
(5 ⇒ 6) Xが有限性を持つとする.順序集合(X, ⊂)が5の仮定を満たすことを示せばよい. C⊂Xを鎖としてx := ∪y∈C y と置く.z⊂xを任意の有限部分集合とする.xの定義とzが有限集合であることから z⊂y1∪ y2∪…∪yn となるyi∈Cが存在する.(C, ⊂)が全順序であるからy := max{ y1, y2, …, yn } が存在してz⊂yとなることが分かる.y∈C⊂X,即ちy∈XだからXが有限性を持つ事よりz∈Xである.
従って再びXが有限性を持つ事からx∈Xである.
(6 ⇒ 7) C := { Y⊂X | Yは鎖 } は空ではない.明らかにCは有限性を持つので,Tukeyの補題より極大元を持つ.
(7 ⇒ 8)は明らか.
(8 ⇒ 9) C⊂Xを鎖とする.集合 Y := { y∈X | 任意のx∈Cに対してx≦yまたはy≦x } を考える.明らかにC⊂Yである.(Y, ≦)は順序集合だから,仮定7より極大鎖D⊂Yを持つ.C⊂Dである.
¬C⊂Dと仮定する.x∈C\Dが取れる.Dの極大性よりD∪{x}⊂Yは鎖ではない.故にあるy∈D⊂Yが存在して¬x≦yかつ¬y≦xとなるが,それはYの定義に矛盾する.
鎖E⊂XがD⊂Eを満たすとする. するとC⊂D⊂EだからYの定義によりE⊂Yである. 即ちEはYの鎖でもある.故にDの極大性によりE=Dである.即ちDはCを含むXの極大鎖である.
(9 ⇒ 8)明らか.
(8 ⇒ 1) Zornの補題と同値な整列可能定理を示す.その為にXを任意の集合とし A := { f: α→A | αは順序数でfは単射 } と置く.(A, ⊂)は順序集合である.よって極大鎖Cを持つ.するとg := ∪f∈C f はある順序数からXへの単射である.Cの極大性からgは全射.故にXは整列可能である.
(6 ⇒ 10) C := { Y⊂X | Yは反鎖 } は空でない.明らかにCは有限性を持つので,Tukeyの補題より極大元を持つ.
(10 ⇒ 11) 明らか.
11 ⇒ 1) Zornの補題と同値な整列可能定理を示す.その為に,整列可能定理と同値な「全順序集合は整列可能」を示す.
整列可能定理についての定理4を参照.
(X, ≦)を全順序集合とする.A := { (Y, y) | Y⊂X, y∈Y } と置き,Aの順序を
(Y, y)≦(Z, z) ⇔ Y=Zかつy≦z
で定める.(y≦zはXの順序である.) 仮定10より極大反鎖C⊂Aが存在する.Xは全順序だから,明らかC = { (Y, f(Y)) | Y∈P(X)\{∅} } と書ける.このfは P(X)\{∅} の選択関数である.よって選択公理から整列可能定理を導くのと同様にしてXが整列可能なことが分かる.
整列可能定理とZornの補題を参照.
定義 Xを集合とする.便宜上,次のように定める.
- (X, R)が関係 ⇔ RはX上の二項関係
- (X, R)が推移 ⇔ RはX上の推移的関係
- (X, R)が反対称 ⇔ RはX上の反対称的関係
- (X, R)が連結 ⇔ RはX上のconnectedな関係
- (X, R)が順序 ⇔ (X, R)は順序集合
- (X, R)が全 ⇔ (X, R)は全順序集合
- (X, R)が整列 ⇔(X, R)は整列順序集合
- (X, R)が有向 ⇔ (X, R)は有向順序集合
- (X, R)が分岐 ⇔ (X, R)はramifiedな順序集合
- (X, R)が森 ⇔ (X, R)は順序で,任意のx∈Xに対し(x↓, R)が整列順序集合
- (X, R)が木 ⇔ (X, R)が森で,最小元を持つ
- (X, R)が推連 ⇔ (X, R)は推移かつ連結である
- (X, R)が反連 ⇔ (X, R)は反対称かつ連結である
以上のように定めたとき,MP(P, Q)で命題
Xは任意の集合で,(X, R)はPであるとする.もし「任意のY⊂Xに対して「(Y, R)がQになるならばYはXに上界を持つ」」が成り立つならば,Xは極大元を持つ.
を表す.例えばMP(順序, 全)はZornの補題である.
定理2 Zornの補題 ⇔ MP(推移, 整列)
証明 ←は明らか.逆⇒を示す.その為に,Zornの補題と同値な定理1の2を用いる.
RをX上の推移的関係とし,任意の部分整列順序は上界を持つとする.部分集合Y⊂Xに対して Y⇓ := ∪y∈Y y↓ = { z∈X | あるy∈Yが存在してzRy } と書くことにする.W := { Y⊂X | (Y, R)は整列順序集合 } と置く.W上の関係≦を
Y≦Z ⇔ Y⊂Z かつ Z∩Y⇓⊂Y
と定める.≦はWの推移的関係である.
Y≦ZかつZ≦Wであるとする.即ちY⊂Z⊂W, Z∩Y⇓⊂Y, W∩Z⇓⊂Zである.よって
Y ⊃ Z∩Y⇓ ⊃ (W∩Z⇓)∩Y⇓ = W∩Y⇓
となるからY≦Wである.
故に定理1の2により極大鎖V⊂(W, ≦)が存在する.Z := ∪Y∈V Y とする.明らかに(Z, R)は順序集合である.任意のA(≠∅ )⊂Zを取る.Zの定義からあるY∈Vが存在してY∩A≠ ∅ である.Y∈V⊂Wだから,(Y, R)は整列順序.よってx := min(Y∩A) が存在する.このxはAの最小元でもある.
y∈A, y≠xとする.
(i) y∈Yのとき.明らかにxRyである.
(ii) y∉ Yのとき.あるY'∈\mathcal{V}についてy∈Y'となるが, (\mathcal{V}, ≦)は鎖であるからY≦ Y'でなければならない. 従ってY'∩ Y⇓⊂Yであるからy∉ Y⇓である. よって,x∈Yだから\lnot yRxである. x, y∈Y'で(Y', R)が鎖であることからxRyでなけらばならない.
(i)(ii)よりxはAの最小元である.
よって(Z, R)は整列順序集合である事が分かる.故にZ∈Wである.このZは(W, ≦)の極大元である.
A∈WがZ≦Aを満たすとする.Zの定義から,任意のYVに対しY≦Z,よってY≦Aである.即ちV∪{A}は(W, ≦)の鎖である.Vの極大性から V = V∪{A} となる,従ってA∈V,よってA≦Zとなる.即ちZは極大元である.
(Z, R)⊂Xは整列順序だったから,MP(推移, 整列)の仮定によりZの上界x∈Xが存在する.
y∈XがxRyを満たすとする.勿論yはZの上界である.yRzとなるz∈Zが存在する.
「全てのz∈Zに対し¬yRz」と仮定する.(Z∪{y}, R)は整列順序だから,Z∈Wの極大性から Z = Z∪{y} である.従ってy∈Z,故に¬yRyである.一方xがZの上界であることからyRxであり,ゆえにxRyからyRyとなり矛盾する.
このとき推移律からxRzである.するとxがZの上界であることからz=xまたはzRxであるが,どちらにしてもyRxである.従ってxが(X, R)の極大元であることが分かった.
定理3 P, Qが次のいずれかであるとき,MP(P, Q)はZornの補題と同値である.
P = 推移, 順序, 分岐, 森
Q = 連結, 反連, 推連, 全, 有向, 整列
証明 まず,定理2で示したようにZornの補題 ⇔ MP(推移, 整列)である.次に,MP(森, 有向) ⇒ MP(森, 連結)である.
(X, ≦)を森とし,Xの任意の部分連結集合が上界を持つとする.Y⊂Xを部分有向集合とする.x, y∈Yとすると,Yは有向集合だからあるz∈Yが存在してx≦z, y≦zである.よってx, y∈z↓⊂Xであり,今Xは森だからz↓は整列順序集合.故にx≦yまたはy≦xである.即ち,Yは連結である.従って上界を持つ.故に仮定のMP(森, 有向)からXは極大元を持つ.
P⇒P', Q⇒Q'であればMP(P', Q)⇒MP(P, Q),MP(P, Q)⇒MP(P, Q') である.またP⇒QであることをP→Qと書いて図示すると次のようになる.
以上により次の図式が分かる.
よって後は MP(森, 連結)⇒MP(推移, 整列) を示せばよい.
(X, R)を推移とし,Xの任意の部分整列順序が上界を持つとする.W := { Y⊂X | (R, ≦)は整列順序 } と置く.Wの二項関係≦を
Y≦Z ⇔ Y=Zまたはあるz∈Zが存在してY=z↓
と定める.すると(W, ≦)は森である.連結部分集合V⊂Wを取ると,明らかに ∪Y∈V Y がVの上界である.故にMP(森, 連結)によりWは極大元Y∈Wを持つ.Y⊂Xは部分整列順序だから,上界x∈Xを持つ.このxがXの極大元である.故にMP(推移, 整列)が示された.
定理4 Zornの補題⇔ MP(有向, 整列)
証明(⇒) MP(推移, 整列) ⇒ MP(有向, 整列)であるから明らか.
(←) MP(有向, 整列) ⇒ MP(森, 整列)を示せばよい.
(X, ≦)を森として,Xの部分整列順序は上界を持つとする.
Xは整列可能でないと仮定する.W := { (Y, R) | Y⊂X, (Y, R)は整列順序 } と置く. Wの順序≦を
(Y, R)≦(Z, S) ⇔ Y⊊Z または (Y=ZかつR=S)
で定める.(W, ≦)は有向集合である.
(Y, R), (Z, S)∈Wとする.
(i) Y≠Zのとき.
A := Y∪Z として,V上の整列順序Tを
aTb ⇔ (a, b∈YかつaRb)または(a, b∈Z\YかつaSb)または(a∈Yかつb∈Z\Y)
で定めれば(A, T)∈W, (Y, R)≦(A, T), (Z, S)≦(A, T)である.
(ii) Y=Zのとき.
Xは整列可能でないから,Y ⊊ X である.
そこでx∈X\Yを一つ取り A := Y∪{x} と置く.A上の整列順序Tを
aTb⇔ (a, b∈YかつaRb)またはb=x
で定めれば(A, T)∈W, (Y, R)≦(A, T), (Z, S)≦(A, T)である.
V⊂(W, ≦)を部分整列順序とする.Z := ∪(Y, R)∈V Y と置く.z∈Zに対して(Yz, Rz) := ≦-min{ (Y, R)∈V | z∈Y } とする.Zの順序Sを
zSw ⇔ (Yz, Rz)<(Yw, w)または((Yz, Rz)=(Yw, w)かつzRzw)
で定めると,(Z, S)は整列順序である.故に(Z, S)∈WはVの上界である.故に仮定のMP(有向, 整列)により(W, ≦)は極大元(Y, R)を持つ.このとき明らかにY=Xであり,Xが整列可能でないことに矛盾する.
従ってXは整列可能である.(X, R)を整列順序とする.¬|λ|≦|X|を満たす順序数λを取る.Xに含まれない元 ∞ ∉ X を一つ取っておく.f: λ→X∪{∞}を
f(α) := R-min{ x∈X\{f(β)|β<α} | 任意のβ<αに対してf(β)≦x }
で定める(ただし,このようなminが存在しないときはf(α):=∞とする).fの定義から,f(α)=f(β)≠∞ならばα=βである.λの取り方からfは単射でないので,f(α)=∞となるα<λは存在する.そこでγ := min{ α<λ | f(α)=∞ } と置く.Y := { f(β) | β<γ } とすればY⊂(X, ≦)は部分整列順序である.故に上界x∈Xを持つ.このときxが極大元である.
定理5 次の命題は(ZF上)同値.
- Zornの補題
- 順序集合Xが「Xの部分整列順序は上界を持つ」を満たすならば,Xの極大元が存在する.
- 順序集合Xが「Xの部分整列順序は上限を持つ」を満たすならば,Xの極大元が存在する.
- 順序集合Xが「Xの鎖は上限を持つ」を満たすならば,Xの極大元が存在する.
- 順序集合(X, ⊂)が「任意の部分整列順序Y⊂Xに対して∪_{y∈Y}y∈X」を満たすならば,Xは極大元を持つ.
証明 2 はMP(順序, 整列)だから,定理3により 1⇔2 である.また 2⇒3,3⇒4,3⇒5 は明らか.
4⇒1 と 5⇒1 は定理1の条件5が成り立つことから分かる.
MS(P, Q)で命題
(X, R)がPのとき,集合{ Y⊂X | (Y, R)はQである } は⊂に関する極大元を持つ
を表すとする.
定理6 次の(P, Q)に対して Zornの補題 ⇔ MS(P, Q) である.
- P=関係,推移,Q=反対称,連結,反連,推連,順序,全,有向,分岐
- P=反対称,Q=連結,反連,推連,全,有向,分岐
- P=連結,Q=反対称,連結,順序,全,有向,分岐
- P=順序,Q=連結,反連,推連,全,有向,分岐
- P=有向,Q=連結,反連,推連,全,分岐
- P=分岐,Q=連結,反連,推連,全,有向
- P=森,Q=連結,反連,推連,全,有向,整列
- MP(推移, 反対称) ⇔ MP(推移, 順序)
- MP(連結, 順序) ⇔ MP(連結, 全) ⇔ MP(連結, 有向) ⇔ MP(連結, 分岐)
- MP(有向, 連結) ⇔ MP(有向, 反連) ⇔ MP(有向, 推連) ⇔ MP(有向, 全) ⇔ MP(有向, 分岐)
- MP(森, 連結) ⇔ MP(森, 反連) ⇔ MP(森, 推連) ⇔ MP(森, 全) ⇔ MP(森, 有向) ⇔ MP(森, 整列)
証明 (1) P⇒P' ならば MP(P', Q)⇒MP(P, Q) である.
(2) 関係R⊂X×Xに対して「(X, R)が連結 ⇔ (X, Rc)が反対称」「(X, R∪I)が全 ⇔ (X, Rc∪I)が全」が成り立つ.故に MP(反対称, 連結)⇔MP(連結, 反対称) と MP(反対称, 反連)⇔MP(連結, 反連) と MP(反対称, 全)⇔MP(連結, 全) と MP(関係, 反対称)⇔MP(関係, 連結) が分かる.
(3) 次の同値は明らかである.
以上の(1)(2)(3)を合わせると,次の図式が得られる. (ここで黒矢印は(1),青い太線の矢印は(2),赤い点線の矢印は(3)による.また MS(P, Q) を P/Q で表した.四角い枠については後述.)
また,Q= 反対称,連結,反連,推連,順序,全,有向,分岐のとき,Zornの補題⇒MP(関係, Q) である.よって後は「図中で四角に囲まれた命題 ⇒ Zornの補題」,即ち次の(i)(i)(iii)を示せばよい.
(i) MS(有向, 全) ⇒ Zornの補題
定理1の条件7「任意の順序集合は極大鎖を持つ」を示す.(X, ≦)を順序集合とする.C := { Y⊂X | (Y, ≦)は鎖 } とすると(C, ⊃)は有向集合になる.よって仮定のMS(有向, 全)により極大な部分全順序M⊂Cが存在する.このとき Z := ∪Y∈M Y と置けば明らかにこのZ⊂Xが極大鎖である.
(ii) MS(森, 全) ⇒ Zornの補題
MP(順序, 整列)を示す.(X, ≦)を順序集合として,Xの部分整列順序は上界を持つとする.W := { Y⊂X | (Y, ≦)は整列順序 } として,Wに順序≦を
Y≦Z ⇔ Y=Z または あるz∈Zが存在してY=z↓
で定める.すると(W, ≦)は森になる.よって仮定のMS(森, 全)により極大な部分全順序V⊂Wが存在する.このとき Z := ∪Y∈V Y と置けば明らかにZ∈Wだから,Zの上界x∈Xが存在する.このxが極大元である.
(iii) MS(推移, 反対称) ⇒ Zornの補題
選択集合の存在を示す.その為にを互いに素な非空集合の族とする.に関係Rを
xRy ⇔ あるλ∈Λ が存在してx, y∈Xλ
と定める.Rは勿論推移的であるから,仮定のMS(推移, 反対称)により極大なYを得る.このYがの選択集合である.
MS'(P, Q)で命題
(X, R)がPであり,Y⊂X で(Y, R)がQであるとする.このとき集合 { Z⊂X | Y⊂Z,(Z, R)はQである } は⊂に関する極大元を持つ
を表すとする.
定理7 定理6で述べた組(P, Q)のうち,(森, 整列)を除いて Zornの補題⇔MS'(P, Q) である.
証明 定理6と同様にして Zornの補題⇒MS'(P, Q) が分かる.一方,明らかに MS'(P, Q)⇒MS(P, Q) であるから MS'(P, Q)⇒Zornの補題 である.
定理8
Zornの補題
⇔ 順序集合Xが「下の条件(*)を満たす任意のA⊂Xが上界を持つ」を満たすならば,Xは極大元を持つ.
(*) 任意の元x, y∈Aに対し{x, y}⊂AはAに上界を持つ.
証明(⇒) Xを順序集合とする.(*)を満たすA⊂Xが上界を持つとする.C⊂Xを任意の鎖とすると鎖は(*)を満たすから,Cは上界を持つ.従ってZornの補題よりXは極大元を持つ.
(←) 選択公理を示す.を非空集合の族とする.X := { f: Γ→ | Γ⊂Λ, f(λ)∈Xλ } と定める.Xに⊂で順序を入れる.
A⊂Xが(*)を満たすとする.g := ∪f∈A f と置く.λ∈dom(g)を取る.dom(f1), dom(f2)∋λとなる任意のf1, f2∈Aを取る.条件(*)より,{f1, f2}はAに上界hを持つ.このとき h(λ) = f1(λ) = f2(λ) である.よってg(λ)は一意に定まる.故にgは写像であり,g∈Xとなる.明らかにgはAの上界である.
よって仮定よりXは極大元を持つが,それが選択関数である.
定理9
Zornの補題
⇔ 任意の集合Xは次の条件を満たす極大部分集合Y⊂Xを持つ.
任意の元a, b∈Y に対してa∈bまたはa=bまたはb∈a
証明(⇒) Tukeyの補題(定理1の5)により明らか.
(←) 整列可能定理を示す.Xを任意の集合として W := { (Y, R) | Y⊂X, R⊂Y×Y, (Y, R)は整列順序 } と定める.Wに順序関係<を次のように定義する.
(Y, R)<(Z, S) ⇔ あるz∈Zが存在して(Y, R)=(z↓, S).
すると(W, ≦)は木である.W上の写像fを
f(Y, R) := { {R} }∪{ f(W, T) | (W, T)∈W, (W, T)<(Y, R) }
で定める.
(i) f(Y, R)=f(Z, S) ⇔ (Y, R)=(Z, S)
←は明らか. ⇒を示す.f(R)=f(S)かつ(Y, R)≠(Z, S)であるとする.するとR≠Sであるから{R}≠{S}となる.よって,f(R)⊂f(S)だから {R}∈{ f(W, T) | (W, T)∈W, (W, T)<(Z, S) } でなければならない.故にある(W, T)<(Z, S)が存在して R = f(W, T) となる.よって {T}∈f(W, T)=R⊂Y×Y となり矛盾する.
(ii) f(Y, R)∈f(Z, S) ⇔ (Y, R)<(Z, S)
←はfの定義から明らか. f(Y, R)∈f(Z, S)とする.するとfの定義よりf(Y, R)={S}かf(Y, R)∈{ f(W, T) | (W, T)∈W, (W, T)<(Z, S) } のどちらかである.しかしf(Y, R)={S}はありえない.故にある(W, T)<(Z, S)が存在してf(Y, R)=f(W, T)と書ける.すると(i)により(Y, R)=(W, T)となるから,(Y, R)<(Z, S)である.
集合f(W)に仮定を適用して,Q⊂f(W)を得る.V := f-1(Q) と定める.(i)(ii)により,V⊂Wは「任意の(Y, R), (Z, S)∈Vに対し(Y, R)<(Z, S)または(Y, R)=(Z, S)または(Z, S)<(Y, R)」を満たす極大部分集合である.A := ∪(Y, R)∈V Y, T := ∪(Y, R)∈V R とすれば,明らかに(A, T)∈Wである.
X≠Aと仮定する.x∈X\Aを取る.T' := T∪(A×{x})∪{ <x, x> } と置くと(A∪{x}, T')∈Wである.V' := V∪{ (A∪{x},T') } を考えると,これは「任意の(Y, R), (Z, S)∈V' に対し(Y, R)<(Z, S)または(Y, R)=(Z, S)または(Z, S)<(Y, R)」を満たす.明らかに V ⊊ V' だから V の極大性に矛盾する.よってX=Aであり,TはXを整列する.
定理10 集合Xと整数n≧2に対して,UN(X, n)で次の命題を表すとする.
任意のR⊂Xnに対して { Y⊂X | Yn⊂R } は(⊂に関する)極大元をもつ.
n≧2を整数とするとき,次の命題は(ZF上)同値.
1. Zornの補題
2(n). 任意のXに対してUN(X, n)
3. あるn≧2が存在して任意のXに対しUN(X, n)
4. 任意のXに対してあるn≧2が存在してUN(X, n)
証明 1⇒2(n) と 2(n)⇒3 と 3⇒4 は明らか.
(4⇒2(2)) R⊂X×Xを二項関係とする.仮定4により,あるn≧2が存在してUN(X, n)が成り立つ.そこで R×Xn-2 にUN(X, n)を適用して極大なYを得る.このYは明らかに { Y⊂X | Y2⊂R } の極大元である.
(2(2)⇒1) 2(2)⇒MS(関係, 連結) を示せばよい.R⊂X×Xを二項関係とする.R∪R-1∪I に2(2)を適用して { Y⊂X | Y2⊂R∪R-1∪I } の極大元Yを得る.明らかに,このYが { Y⊂X | (Y, R)は連結 } の極大元である.
定義 集合Xに対し,二項関係を次のように定義する.
- xDy ⇔ x∩y = ∅
- xKy ⇔ x⊂y または y⊂x
- xJy ⇔ ¬x⊂y かつ ¬y⊂x かつ x∩y≠∅
R⊂Xを関係とする.部分集合Y⊂Xが「任意の異なる二元x, y∈Yに対しxRy」を満たすとき, Yは property Rを持つということにする.
定理11 関係Rに対しN(R)で次の命題を表すとする.
任意のXに対し { Y⊂X | Yは property R を持つ } は極大元をもつ
このとき
Zornの補題⇔N(D)⇔N(Dc)⇔N(K)⇔N(J)⇔N(Jc)
証明 (Zornの補題⇒N(J)) Tukeyの補題より明らか.
(N(J) ⇒ N(Dc)) 任意の集合Xをとる.uを「任意のx, y∈Xに対し<x, u> ∉ y」を満たすように取り,x∈Xに対し f(x) := x∪{ <x, u> }と定める.仮定 N(J) を f(X) に適用すると,property Jを持つ極大部分集合S⊂f(X)の存在が分かる.Y := f-1(S) と定める.
x, y∈X, x≠yとする.定義からf(x)Kcf(y).故に f(x)Jf(y) ⇔ f(x)Dcf(y) が成り立つ.一方,f(x)∩f(y) = x∩y だから f(x)Dcf(y) ⇔ xDcy となる.即ち f(x)Jf(y) ⇔ xDcy であり,従って Y⊂X はproperty Dc を持ち極大である.
(N(Dc) ⇒ N(D)) 任意の集合Xをとる.x∈Xに対し f(x) := { {x} }∪{ {x, z} | z∈X, xDz } と置く.
x, y∈X, x≠yとする.定義から f(x)Dcf(y) ⇔ xDy である.よって仮定 N(Dc) を f(X) に適用すれば,N(D) の成立が分かる.
(N(D) ⇒ Zornの補題) 選択公理を示す.を互いに素な非空集合の族とする.X := { {<0, x>, <1, λ>} | λ∈Λ, x∈Xλ } とする.仮定 N(D)をXに適用して,property Dを持つ極大部分集合Y⊂Xを得る.{<0, x>, <1, λ>}D{<0, y>, <1, μ>} ⇔ λ≠μ だから,各λ∈Λに対し{<0, xλ>, < 1, λ>}∈Yとなるようなxλ∈Xλが唯一つ存在する.よって { xλ | λ∈Λ } が選択集合である.
(Zornの補題⇒ N(Jc)) Tukeyの補題より明らか.
(N(Jc) ⇒ N(K)) 任意の集合Xをとる.∪x∈X x に含まれない元uを取り,x∈Xに対しf(x) := x∪{u} と置く.すると任意のx, y∈X, x≠yに対しf(x)Dcf(y)となるから,f(x)Jcf(y)⇔ f(x)Kf(y)⇔ xKyが分かる.故に仮定N(Jc)をf(X)に適用すれば,N(K)の成立が分かる.
(N(K) ⇒ Zornの補題) 明らかにN(K)⇔「定理1の3」である.
定理12 Zornの補題⇔N(Kc)
証明 省略(PDF版参照)
定理13
Zornの補題
⇔ 順序集合(X, ≦)が「任意の鎖は上界を持つ」を満たすとき,
あるt∈Xが存在して t^ := { x∈X | t<x } は最小元を持たない.
証明 省略(PDF版参照)
参考文献
- Horst Herrlich『Axiom of Choice』
- Herman Rubin, Jean E. Rubin『Equivalents of the Axiom of Choice II』
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