2012年04月21日更新

せんたくこうり

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いきなりですが,次の命題を証明してください.

命題 (X, O)をコンパクト位相空間,F⊂Xを閉集合とする. このとき誘導位相空間(F, O|F)はコンパクトである.

是非何も見ず証明してみてください. それほど難しい証明ではありません.

一応,証明を書いておきます。

証明 F の任意の開被覆 F = ∪λ∈Λ Uλ ( Uλ∈O|F )を取る.位相 O|F の定義より,各 Uλ に対してある Vλ∈O が存在して Uλ = Vλ∩F と書ける.補集合 Fc∈O は開だから X = Fc∪(∪λ∈ΛVλ) は X の開被覆である.よって X のコンパクト性から,あるλ0, …, λn∈Λが存在して X = Fc∪Vλ0∪…∪Vλn と書ける.このとき

F = X∩F = (Fc∩F)∪(Vλ0∩F)∪…∪(Vλn∩F) = Uλ0∪…∪Uλn

となる.故にFはコンパクトである.

さて,なぜこの命題を取り上げたのかと言うと,今のこの証明には選択公理が使われているのです.(気付いたでしょうか? 良ければどこに使われているか考えてみてください.)

問題なのは初めのほうにある「各Uλに対してあるVλ∈Oが存在して~」の部分です.各Uλに対して,Vλを《選択》してしまっているのです.選択公理が使われているということがより分かり易くなるように,証明を書き直しておきます.

証明 F の任意の開被覆 F = ∪λ∈ΛUλ ( Uλ∈O|F )を取る.λ∈Λに対してAλ := { V∈O | Uλ=V∩F } と置く.O|F の定義により Aλ ≠ ∅ である.そこで集合族 { Aλ }λ∈Λ に選択公理を適用して元 ( Vλ )λ∈Λ∈Πλ∈Λ Aλ を得る.補集合 Fc∈O は開だから X = Fc∪(∪λ∈Λ Vλ) はXの開被覆である.よってXのコンパクト性から,あるλ0, …, λn∈Λが存在して X = Fc∪Vλ0∪…∪Vλn と書ける.このとき

F = X∩F = (Fc∩F)∪(Vλ0∩F)∪…∪(Vλn∩F) = Uλ0∪…∪Uλn

となる.故にFはコンパクトである.

しかし,実はこの証明は選択公理を使わずにできます.一個ずつ《選択》しようとするから問題なのであって,まとめて全部取って来てしまえばよいのです.きちんと書くと,次のような証明になります.

証明 F の任意の開被覆 F = ∪λ∈ΛUλ ( Uλ∈O|F )を取る.λ∈Λに対して Aλ := { V∈O | Uλ=V∩F } と置く.このとき A := ∪λ∈ΛAλ とすれば X = Fc∪(∪V∈A V) は X の開被覆である.よって X のコンパクト性から,あるV0, …, Vn∈A が存在して X = Fc∪V0∪…∪Vn と書ける.各 i=0, …, n に対してVi∈Aλiとなるλi∈Λを取る.このとき Uλi = Vi∩F であるから

F = X∩F = (Fc∩F)∪(V0∩F)∪…∪(Vn∩F) = Uλ0∪…∪Uλn

となる.故に F はコンパクトである.

というわけで、選択公理が必要っぽく見えるけど実は使わずに証明できるという例でした.同じような命題として「Hausdorff空間のコンパクトな部分集合は閉集合である」があります.選択公理を回避する方法は全く同じなのでやってみてください.実は,同じことがAlexandroff-Urysohn-コンパクトの定理1の 1⇒2 でも起こっています.最初のほうで

すると任意のx∈Xに対しある開近傍 U⊂X が存在して |A|>|A∩U| となる.よって開集合の族 U := { U∈O | |A|>|A∩U| } は開被覆である.

ということをやっていますが,ここは素朴にやると

任意のx∈Xに対しある開近傍 Ux⊂X が存在して |A|>|A∩Ux| となる.このとき { Ux | x∈X } は開被覆である.

となり,選択公理を使ってしまうのです.(このときは選択公理を仮定しているから別に使ってもよいのですが,一応回避しました.)

他の例として,次のようなものもあります.

選択公理と同値な命題として「整列可能定理」「任意の非空集合は群構造を持つ」が知られています.単純に次のように考えると,これらの命題から選択公理を導くのは簡単に見えます.※勿論,この証明は間違っています

(整列可能定理⇒選択公理) {X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の族とする.整列可能定理により,Xλの整列順序≦λが存在する.そこで選択関数 f を f(λ) := 「(Xλ, ≦λ)の最小元」 と定めればよい.

(任意の非空集合は群構造を持つ⇒選択公理) {X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の族とする.任意の非空集合は群構造を持つから,(Xλ, ・λ)が群になるような積・λが存在する.そこで選択関数 f を f(λ) := 「(Xλ, ・λ)の単位元」 と定めればよい.

この二つがどこが問題なのでしょうか.一言で言うと「整列順序」や「群構造」を《選択》してしまっているのです.

整列可能定理の方で言えば,Wλ := { ≦⊂Xλ×Xλ | (Xλ, ≦)は整列順序 } と置けば Wλ ≠ ∅ です.しかしここから (≦λ)λ∈Λ∈Πλ∈ΛWλ を取るには選択公理が要るというわけです.群のほうも同様です.

しかし,整列可能定理の方はこの問題は簡単に回避できます.一個ずつ整列するから問題なのであって,一気に全部整列してしまえばよいのです.

(整列可能定理⇒選択公理) {X_λ}_{λ∈Λ}を非空集合の族とする.整列可能定理によりX:=∪_{λ∈Λ}X_λの整列順序≦が存在する.そこで選択関数fをf(λ):=「Xλの最小元 in (X, ≦)」とすればよい.

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