集合に群構造が入る
定理
選択公理 ⇔ 任意の非空集合Xに群構造を入れることができる
証明 (⇒) Xが有限集合の時は自明( Z/nZ を考えればよい)だから,Xは無限集合とする.Pfin(X) := { x⊂X | xは有限集合 } と書くことにする.選択公理より,|X| = |Pfin(X)|,即ち全単射 X→Pfin(X) が存在する.
実は「任意の無限集合Xに対し |X| = |Pfin(X)| 」は選択公理と同値である.証明は基数の性質の定理9を参照.
よって Pfin(X) に群構造を入れられることを示せばよい.
自然な同一視 P(X) = 2X で考えると Pfin(X) = { f∈2X | 有限個のx∈Xを除いてf(x)=0 }である.2 = {0, 1} = Z/2Z は体だから,それの直積である2Xは自然に環となる.このとき明らかに Pfin(X)⊂2X は(加法についての)部分群である.故に Pfin(X) に群構造を入れることができた.
同じことだが,直接演算を定義しても証明できる.
Pfin(X)上の二項演算を対称差Δで定義する.(これが2Xでの加法に対応する.) 即ち
xΔy := (x∪y)\(x∩y) = (x∪y)∩(xc∪yc)
である.(Pfin(X), Δ)は群になる.
xΔ∅ = ∅Δx = x より ∅∈F(X) が単位元. xΔx = ∅ より x-1=x.故に結合律を示せばよい.x, y, z∈F(X) に対し
(xΔy)Δz
=[(x∪y)∩(xc∪yc)]Δz
=( [(x∪y)∩(xc∪yc)]∪z ) ∩ ( [(x∪y)∩(xc∪yc)]c∪zc )
=( [(x∪y)∪z]∩[(xc∪yc)∪z] ) ∩ ( [(xc∩yc)∪(x∩y)]∪zc )
=( [x∪y∪z]∩[xc∪yc∪z] ) ∩ ( (xc∩yc)∪(x∩y)∪zc )
=(x∪y∪z) ∩ (xc∪yc∪z) ∩ (xc∪y∪zc) ∩ (yc∪x∪zc)
=(x∪y∪z) ∩ (x∪yc∪zc) ∩ (xc∪yc∪z) ∩ (xc∪y∪zc)
=( x∪[(y∪z)∩(yc∪zc)] ) ∩ ( xc∪(yc∩zc)∪(y∩z) )
=( x∪[(y∪z)∩(yc∪zc)] ) ∩ ( xc∪[(yc∩zc)∪(y∩z)] )
=( x∪[(y∪z)∩(yc∪zc)] ) ∩ ( xc∪[(y∪z)∩(yc∪zc)]c )
=( x∪(yΔz) ) ∩ ( xc∪(yΔz)c )
=xΔ(yΔz)
故に結合律が成り立つ.
(←)整列可能定理を示す.X≠∅ を任意の集合とする.単射λ→X が存在しないような順序数λが存在するので,そのようなλを1つ取っておく.
λ := {β:順序数 | 単射β→Xが存在する } と置けばよい.基数の性質の命題の証明を参照.
仮定により X∪λを群にすることができる.(その積を・とする.)このとき
任意のx∈Xに対して,あるα∈λ が存在してx・α∈λ
が成立する.
x∈Xとする.写像 f: λ→X∪λ をf(α) := x・αで定義すれば,これは積・の性質により単射となる.よって,λの取り方から ¬Im(f)⊂X でなければならない.故にあるα∈λが存在して x・α = f(α) ∉ X,即ちx・α∈λである.
さて,直積λ×λに辞書式順序を入れる.するとこれは整列順序になる.そこでg\colon X→λ×λを
g(x) := min{ <α, β>∈λ×λ | x・α=β }
と定義すると,gは単射であり,よってXは整列可能である.
この定理を見てすぐに思いつくのは,群の部分を環や体などの別の構造にしたらどうなるか,という問題である.まず次の2点に注意する.
(1) Pfin(X)⊂2Xは積についても閉じている. 故にPfin(X) は(単位元を持たない)可換環になる.
P(X)の∩が2Xの積に対応している.勿論, 先ほどと同様に直接 (Pfin(X), Δ, ∩) が環になることを示すこともできる.
(2) ← の証明には積・から得られる写像が単射であることしか使っていない.特に,積・が
∀x, y, zに対し( x・y=x・z ⇒ y=z )
∀x, y, zに対し( x・z=y・z ⇒ x=y )
という性質を満たしていれば先の証明は実行できる. (この条件を満たすことを消約(cancellative)と言うことにする.) 従って次の系が分かる.
系 前定理は群の部分を
- 消約亜群 (亜群=magma=二項演算を持つ集合)
- 消約半群
- 消約アーベル半群
- quasigroup ( ∀a, b ∃x, y( a・x=b, y・a=b ) を満たす消約亜群)
- loop (単位元を持つquasigroup)
- アーベル群
- (単位元の存在を仮定しない)可換環
に変更しても成立する.
更に,次のことも分かる.
定理 次の命題は( ZF 上)同値.
- 選択公理
- 任意の非空集合に単位的可換環の構造を入れることができる.
- 任意の無限集合に整域の構造を入れることができる.
- 任意の無限集合に体の構造を入れることができる.
証明 4⇒3 と 3⇒2 と 2⇒1 は明らかだから,1⇒4 を示せばよい.その為には無限集合 X に対して |X|=|Q(X)| を示せばよい.
まず明らかに |X|≦|Q(X)| である. α∈Q に対して
Aα := { αx1…xn | n∈N, xi∈X } ⊂Q(X)
と置けば
|Q(X)|≦|Pfin(∪α∈QAα)| = |∪α∈QAα|≦0・|A1| = |A1|
だから |A1|≦|X| を示せばよい.
有限集合 Y = { x1, …, xn } ⊂X に対して BY := { x1e1…xnen | ei > 0 } と書く.このとき A1 = ∪Y∈Pfin(X)BY である.今, |BY| = 0|Y| = 0 だから
|A1| = ΣY∈Pfin(X)|BY| = ΣY∈Pfin(X)0 = |Pfin(X)|・0 = |X|・0 = |X|
である.
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