Hahn-Banachの定理
解析学において,選択公理が欠かせない定理として有名なのがHahn-Banachの定理である.
定義
関数 f, g と集合 S に対して
f=Sg ⇔ S⊂dom(f), dom(g) かつ x∈S に対して f(x)=g(x)
f≦Sg ⇔ S⊂dom(f), dom(g) かつ x∈S に対して f(x)≦g(x)
Hahn-Banachの定理 V を実線型空間, W⊂V を部分空間として, p: V→R を劣線型汎関数とする. f: W→R を線型汎関数とし, f≦Wp を満たすとする.このとき Z(p, f):= { g: V→R | g=Wf, g≦V p } ≠ ∅ である.
証明はZornによるが,実は選択公理より真に弱い超フィルター定理(集合 X 上の任意のフィルターは超フィルターに拡張できる)があれば証明できることが知られている.この証明は,超積を使えば次のように簡単にできる.
定理 超フィルター定理 ⇒ Hahn-Banachの定理
証明 A := { g: V→R: 部分線型汎関数 | W⊂dom(g), g=Wf, g≦dom(g)p } とする.任意の x∈V に対して Ax := { g∈A | x∈dom(g) } ≠ ∅ である.また有限個の x0, …, xn∈V に対して Ax0∩…∩Axn≠ ∅ が成り立つ.故に超フィルター定理により, { Ax | x∈X }⊂P(A) を含む A 上の超フィルター U が存在する. *R := RA/U とする. φ: V→*R を x∈V に対して φ(x) := [ { g(x) }g∈A] で定める. φ は明らかに線型で,次の二条件を満たす: (i) φ=Wf (ii) φ≦Vp .(ii)より x∈V に対して φ(x) は有限である.よって ψ(x) := st(φ(x))∈Z(p, f) が定義できる.
[黒田]によれば「一般のBanach空間 X において X* が十分豊富に元を持つ事はHahn-Banachの定理によって保証されている」のであるが,ではもしHahn-Banachが成り立たなければ X* が豊富に元を持たないようなBanach空間 X が存在するのであろうか.実は以下のことが知られている.
実Banach空間 l∞ := { { xn }n=0∞∈RN | supn∈N|xn| < ∞ } と閉部分空間 c0= { { xn } ∈l∞ | limn→∞ xn=0 } ⊂ l∞ から商Banach空間 l∞/c0 が得られる.このとき
命題 (l∞/c0)*≠0 ⇒ Baireの性質を持たない部分集合 A⊂R が存在する.
実は次の定理が成り立つ.[Shelah]
定理 ZF が無矛盾ならば ZF+「任意の A⊂R がBaireの性質を持つ」も無矛盾である.
故に, ZF で (l∞/c0)*≠0 を証明することはできないのである.(即ち,Hahn-Banachが無ければ X*=0 となるような X が存在しえるのである.)
参考文献
- 黒田 成俊,関数解析,共立出版,1980
- H. Judah and S. Shelah, BAIRE PROPERTY AND AXIOM OF CHOICE, Israel J. Math. 84 (1993), 435-450
- E. Schechter, Handbook of Analysis and its Foundations, Academic Press, 1997
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