2012年01月17日更新

代数閉包の存在と一意性

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命題選択公理を仮定する.任意の体kに対し代数閉包kalg/kが一意に存在する.

証明まず存在を示す. A := { f∈k[x] | fは既約多項式,最高次係数は1 } と置く. 各 f∈A に対し nf := deg(f) 個の不定元 x1(f), …, xnf(f) を用意し, X := { xi(f) | f∈A, 1≦i≦nf } とする. gf(x) := (x-x1(f))…(x-xnf(f))-f(x)∈k[X][x]を展開して

gf(x) = anf-1(f)xnf-1+…+a1(f)x+a0(f) (ai(f)∈k[x1(f), …, xnf(f)])

と表す.{ ai(f) | f∈A, 0≦i≦nf-1 } で生成されるイデアルを I とする. I⊂k[X]は真のイデアルである.

I = k[X] と仮定する.1∈I であるから fj∈A と bj∈k[X] を

1 = b1ai1(f1)+…+bnain(fn)

となるように取れる.簡単のためaj := aij(fj) と書く. L/k を f1, …, fn∈k[x] が完全に分解されるような体とする. fjの根全体をα1(j), …, αnfj(j)∈Lとして, aj = aj(x1(fj), …, xnfj(fj))に xi(fj) = αi(j)を代入すると 定義から明らかにaj1(j), …, αnfj(j))=0.故に1=0となり矛盾する.

故に選択公理よりI⊂m ⊊ k[X]なる極大イデアル m が存在する. kalg := k[X]/mと置く. kalg は自然に k の拡大体とみなせる. 明らかに kalg/k は代数拡大である.

kalg が代数閉体でないと仮定する. 2次以上の既約多項式 f∈kalg[x] が存在する. L := kalg[x]/(f) と置けば L/kalg は有限次拡大で f の根 α∈L を含む.勿論αは kalg上代数的で, 故に k上代数的でもある.従って g(α)=0 となる多項式 g∈k[x] が存在する. このとき g は kalg[x] で完全に分解するから α∈kalg となる. これは f が2次以上の既約多項式であることに矛盾する. 故に kalg/k は代数閉包である.

次に一意性を示す.Ω/k も代数閉包であるとする.

A := { (K, φ) | k⊂K⊂kalg は中間体, φ: K→Ω は中への同型 }

としてAに順序関係≦を

(K, φ)≦(L, ψ)⇔ K⊂L, ψ|K

で定める.Zornの補題によりAは極大元(K, φ)を持つ. 極大性から K=kalg である. またφ(kalg)は明らかに代数閉体だから, φ(kalg)⊂Ωよりφ(kalg)=Ωが分かる. 故にφ: kalg→Ω は同型である.

この命題はZFでは証明できないことが知られている. 但し,体kの濃度を可算に制限すれば,代数閉包の「存在」はZFで証明できる.

命題濃度が可算な体 k に対し代数閉包 kalg/k が存在する.

証明全単射φ: N→ kを取る.αn:=φ(n)と書く.

An := {αinxn +…+αi1x+αi0 ∈k[x] | 0≦ij≦n }
Bn := An\(A0∪…∪An-1 )

と置くと k[x]=∪n∈N Bn であり, 各 Bn は有限集合で,辞書式に順序を入れることができる. よって k[x] は可算集合である. 従って A := { f∈k[x] | fは既約多項式,最高次係数は1 } も可算だから 全単射ψ: N→A が得られる. fn := ψ(n) と置く. K0 := kとして Kn+1/Kn を fn∈k[x] の最小分解体とする. kalg := ∪n∈N Knとすれば kalg/k は代数閉包である.

多項式から最小分解体を得る定まった方法があるため,{ Kn }nの定義には選択公理は必要ないことに注意する.

一方,代数閉包の一意性は濃度が可算であってもZFでは証明できないことが( AC(2)アレフ0 (制限された選択公理参照) がZFで証明できないことを認めれば)次の命題から分かる.

命題濃度が可算な体 k に対し代数閉包 kalg/k が一意に存在する
⇒二元集合の族 { Xn }n∈N は選択関数を持つ

証明まず準備として,pnをn+1番目の素数とする(p0=2, p1=3, …).可算個の不定元を持つ多項式環 R := Q[x0, x1, …] を考える.I⊂R を { xn2-pn | n∈N } で生成されるイデアルとすれば,I⊂R は極大イデアルである. よって K := R/I はQの代数拡大体となる. K の代数閉包 Kalg は勿論Qの代数閉包でもあるから仮定よりKalgQalg

さて { Xn }n∈N を二元集合の族とする.各 Xn は互いに素としてよい.X := ∪n∈N Xn と置いて多項式環Q[X]を考える. fn, gnQ[X]を

fn := Σx∈Xnx, gn := Πx∈Xnx + pn

で定める.J⊂Q[X] を { fn | n∈N }∪{ gn | n∈N } で生成されるイデアルすればJ⊂Q[x] は極大イデアルである.よって L := Q[X]/J はQの代数拡大体となり,先ほどと同様に LalgQalg である.故に Lalg ≅ Kalg だから,同型写像φ: Lalg →Kalg が存在する.任意のx∈ Xを取る.ある n∈Xn が存在して x∈Xn である. |Xn|=2 だから Xn={x, y} と書くと

(x+J)2 = x2+J = -xy+J = pn+J

だからφ((x+J)2) = φ(pn+J) = pn+I = xn2+I より φ(x+J) = ±xn+I でなければならない. このとき勿論φ(y+J)=-(±xn)+Iである. 従って各n∈Nに対し,あるx∈Xn が一意に存在してφ(x+J) = xn+I となる.そこで

f(n) := (φ(x+J)=xn+I となる x∈Xn )

とすれば f: N→X が選択関数である.

参考文献

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